望みの綱は「パイプライン」、
ウクライナ危機に打開策はあるか

国家間紛争を抑制するパイプラインネットワークの効果

2014.03.27(木) 藤 和彦
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 口火を切ったのは当時の西ドイツである。「東方外交」を進めるブラント首相が、天然ガス開発に関する資機材を輸出する見返りに、当時のソ連から天然ガスを輸入することを決定した。そして、この動きにイタリアとフランスも追随する。

 ソ連側も欧州向けの天然ガス輸出を推進するため、ガス田開発を促進するとともに、生産した天然ガスを西欧市場まで輸送するための幹線パイプラインの整備を精力的に進めた。

 米国では1980年代にレーガン政権が成立すると、後にネオコンの代表的人物として名を馳せることになったリチャード・パール国防次官補が、上院の公聴会で、ソ連の天然ガスが欧州に流れることに懸念を表明した。だが、西欧諸国はソ連からの天然ガスの輸入を増加させた。

 現在、欧州地域にはロシアを基点とするパイプラインネットワークが張り巡らされている。実は、これらが欧州地域の良好な安全保障環境に寄与しているとの見方がある。

 つまり、パイプラインには「相互確証抑制」効果があるという。これを最初に提唱したのはロシアの専門家マーシャル・ゴールドマン氏だった。「相互確証破壊」という軍事用語をもじってつけたネーミングである。

 現在、あらゆるエネルギーが「燃料間競争」にさらされていることから、エネルギー供給国が恣意的に供給をストップすれば、消費国は燃料の調達先を変更し、これまで利用してきたパイプラインに対する不信感から二度と使用することはなくなる。

 しかしパイプラインはいったん敷設してしまえば、他に移動させることはできないため、輸出先を変更することは物理的に不可能である。このため、エネルギー供給国は消費国の「生殺与奪の権」を握るというより、先行投資を着実に回収するために、消費国に天然ガスを安定的に供給するという発想が強くなり、相互に敵対的な行動をすることができなくなる。

 すなわち、「パイプラインによってつながれた関係国間では破滅的な闘争が自制的に回避される」というのが、パイプラインによる相互確証抑制効果である。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

エネルギー戦略

20世紀の社会を築き、支えてきた石油。しかし世界的な環境意識の高まりの中で、石油依存社会の限界が明らかになりつつある。石油はいまどうなっているのか。石油社会の次を築き、新世紀を切り開くイノベーションは何か。その最先端の姿をリポートする。

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