(英エコノミスト誌 2014年3月22日号)

ソ連崩壊後の世界秩序は完璧にはほど遠かったが、ウラジーミル・プーチン大統領の考える新たな世界秩序は、それよりもずっとひどい。

プーチン氏の強さの秘密は「ハイハイ不足」?米が身体言語研究

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(中央)は既存の世界秩序を戦車で踏みにじった〔AFPBB News

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3月18日、ロシア議会で、「国民の心の中では、クリミアは常にロシアの不可分の一部だった」と演説した。

 プーチン大統領は、クリミアの住民投票で圧倒的多数がロシア編入に賛成したことを支えとして、あっという間に手際よくクリミア半島をロシアに編入した。この編入は秩序と合法性の勝利であり、欧米の干渉に対抗する一撃であると、プーチン大統領は述べた。

 現実には、プーチン大統領は不安定と衝突を生む原動力だ。大統領が新秩序を打ち立てようと行った行為は、ある理屈をもとに国境線を引き直すことだったが、その理屈を利用すれば、世界中の多くの地域で領土争いが激化する恐れがある。

クリミアの住民の大半が実際にロシア編入を望んでいるとしても、先の住民投票は茶番劇だった。ロシアの最近の振る舞いは、米国との新たな冷戦の始まりという狭い枠組みで語られることが多い。だが実際には、もっと広範な、世界中の国々を危険にさらす脅威だ。プーチン大統領が、既存の世界秩序を戦車で踏みにじったからだ。

母なる国への編入

 外交政策にはサイクルがある。ソビエト連邦崩壊は、10年にわたる米国の絶対的な優位と米国型の価値観の強引な押しつけを招いた。だが、この「一極化した世界」は、ジョージ・ブッシュ前大統領の傲慢さにより膨れ上がった挙げ句、イラクの砂に巻かれて窒息した。

 以降、バラク・オバマ大統領は、もっと協調的なアプローチを取ろうと試みてきた。その根底にあったのが、米国が他国と手を結べば、世界共通の問題に立ち向かい、悪者を孤立させることができるという信念だ。

 そのアプローチは、シリアでみじめな失敗を喫したが、イランではうまくいきそうな兆しが若干ながら見えている。実際、以前ほど露骨ではないとしても、米国の影響力こそが、開かれたシーレーンを維持し、国境を尊重させ、国際法を広く守らせているのだ。その限りでは、ソ連崩壊後の秩序には意味があると言える。

 プーチン大統領は今、その秩序を破壊しつつある。クリミア編入を国際法という衣で包み、ウクライナが核兵器を放棄した1994年にロシアとの間で調印された、ウクライナの国境を保証する覚書には、ウクライナの政権が倒された今、もはや効力はないなどと主張している。