「現在、米国人の15%、人口にして4900万人が飢えている」

 突然こう言われたら、皆さんはどう思われるだろうか。おそらく、米国人の食料は十分のはずだと思うことだろう。しかし、米農務省による最新データ(2012年)では、6人に1人の米国人が慢性的に「飢えている」ことが明らかになっている。

 では、次にこう言われたらどうだろうか。

 「現在、米国人の36%は肥満体である」

 こちらはどこかで聞いたことがあるだろう。米疾病予防管理センターの調査による数字だ。

 さて、ここからがポイントなのだが、実はこの2つの統計に出てくる人たちは重なっている。米国では、飢えの恐怖に脅かされることと、肥満は同じ低所得者層での現象なのだ。常に飢えを感じながら、肥満による健康障害を患っているという人たちは珍しくない。その対策は困難で、複雑な社会問題となっている。

食料がないのではなく買うお金がない

 米国の公的機関では「飢え(hunger)」という言葉を避け、「食料不足(food insecurity)」という言葉を使う傾向にある。「飢え」は食料そのものが不足しているイメージだが、「食料不足」とは、貧困などの理由で十分な食事ができないことを指すという。

 前述した通り、全米で約4900万人が食料不足を経験しており、その内の約1590万人が子供である。これほど食料が豊富で、食料全体の4割が捨てられているという国なのに、それだけ食料不足の人がいるのには矛盾と皮肉を感じざるを得ない。

 食料不足の原因は、端的に言えば「買うお金がない」ということになる。全米で食料不足に陥った人たちが急激に増えたのは、2008年のリーマン・ショック以降だ。