(英エコノミスト誌 2014年3月1日号)

神風特攻隊のパイロットを題材にした映画は、不安になるほど国家主義者たちを勢いづかせている。

 東京のある若い映画ファンは、自分がなぜ3度目の「永遠の0(ゼロ)」鑑賞のために行列に並んでいるか、はっきり分かっていた。第2次世界大戦末期に米国の戦艦を攻撃した「カミカゼ」パイロットの集団に関する映画から彼が感じ取ったメッセージは、当時の若い男性は今日の「草食」男子とは大違いで、男らしく、目的を持っていたということだ。

 「特攻隊」として知られるパイロットらは長年、物議を醸してきたが、彼らの物語が国内でこれほど人気を博したことはなかった。「永遠の0」(神風特攻隊が操縦していた零式戦闘機にちなんで名付けられたもの)は、邦画としては過去最多の観客動員数を誇る映画の1つになりそうだ。

 やはり「永遠の0」を鑑賞した安倍晋三首相は、映画に「感動した」と述べた。映画の原作となったベストセラー小説の著者である百田尚樹氏は、安倍氏と親しい。安倍氏は昨年、日本の公共放送局、日本放送協会(NHK)の経営委員に百田氏を任命した。

 百田氏の意見は保守派にしても右寄りで、2月の東京都知事選でやはり右派の田母神俊雄氏の選挙応援に駆け付けた際、1973年に日本兵が中国民間人を殺した南京大虐殺は「なかった」と言い放った。

南九州市は特攻隊員の遺書を世界記憶遺産に申請

 「永遠の0」が映画館を埋め尽くしている頃、南九州市も近隣諸国を苛立たせることに一役買っていた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界記憶遺産」への登録を目指し、神風特攻隊に関する文書を提出したのだ。

 世界記憶遺産は重要な文書や原稿を登録するもので、マグナカルタや人権宣言が含まれている。市が提出した遺物の中には、特攻隊パイロットの別れの手紙や日記、詩などが含まれている。いずれも、何百人もの特攻隊員が出撃した旧帝国陸軍基地の跡地に建つ市立知覧特攻平和会館に所蔵されているものだ。

 だが、映画も一連の文書も、神風特攻隊員の姿を正しく伝えていない。右派は彼らのことを、お国のため雄々しく死んでいった意欲的な戦士として描こうとする。「永遠の0」では、最初の方はメッセージがはっきりしない。エリートパイロットの主人公が生き延びようとして軍の名誉を傷つける。ところが、そんな彼が任務を受け入れ、人の言う輝かしい栄光に包まれて死んだ時に本物の英雄になるのだ。