勝負の世界で勝つためには「5つのS」が必要だ。それは、Speed(速さ)、Strength(強さ)、Skill(技術)、Stamina(持久力)、Spirit(精神力)を指す。麻生政権に5つのSがあるかどうか検証しながら、新年の政局を展望してみたい。(本文敬称略)

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麻生首相に「5つのS」は?〔AFPBB News

 「5つのS」は、ラグビー経験者から教わったものだ。ボールを持って激しく体をぶつけ合う格闘技には、この5つが必要不可欠な要素になる。具体的には、足の速さ(speed)、肉弾戦での強さ(strength)、パスやタックル、キック、スクラムなどの技術(skill)、長時間走ってもへこたれない持久力(stamina)である。 そして、最も重要なのが「何が何でも勝とう」と思う精神力(spirit)。つまり、「やる気」だ。「闘志」あるいは「気合い」と言い換えてもよい。人間はやる気にさえなれば、思わぬ力を発揮する。半面、やる気のない者は何の力も出せず、組織の足を引っ張る存在でしかない。

 「5つのS」は政治やビジネス、新聞記者の取材などあらゆる「戦い」の現場で必要になる。記者の場合、ライバルよりも「速く」記事を書く(=特ダネを打つ)ことが求められる。取材先や外部からの圧力に屈しない、「強さ」も大事な要素だ。また、取材対象からネタを聞きだして記事を書く「技術」のほか、長時間粘り強く取材を続けるには「スタミナ」もいる。そして、「誰よりも早くネタを取る」「抜いてやるんだ」という「気力」こそが、記者にとって何よりも重要だと筆者は考える。

 ビジネスの世界も記者と同じだ。企業人もこの5つのSを備えておけば、「向かうところ敵なし」と言えるだろう。

08年象徴の漢字、麻生が選んだ「気」 

 「5つのS」を思い出したのは、麻生太郎首相が「2008年の世相を表す漢字」を問われた際、「気」と答えたからだ。「いわゆる『やる気』、それから『活気』、いろんな気がありますけども、その『気』が一番なんじゃないか」(2008年12月11日) なるほど、さすが一国の総理大臣は「やる気」がいかに重要かよく分かっている。景気のことばかり考えているから、つい「気」の一文字が浮かんだのか、それは分からないが。とにかく「今の自公政権を延命させたい」「自らトップリーダーであり続けたい」というやる気(spirit)だけは満々のようだ。

 もっとも、他の「4S」については心もとない。 麻生は2008年度第2次補正予算案の提出を2009年の通常国会に先送りしたため、景気対策は「スピード感」を欠くとさんざん批判された。経済危機で雇用不安が高まり、迅速な政府の対応が求められるのに、麻生がやっていることは国民受けを狙ったパフォーマンスばかり。昨年12月19日に都内のハローワークを視察した後、「目的意識がないと雇う方もその気にならない」と言い放ち、雇用問題の深刻化を理解できない、相変わらずの「上から目線」と受け止められた。

 麻生政権の「強さ」はどうだろうか。与党は衆院で小泉純一郎元首相が残した「遺産」、すなわち3分の2以上の勢力を持つ。対照的に、参院は与党少数という「ねじれ国会」が続いている。自民党麻生派はわずか20人に過ぎず、政権運営の基礎体力は乏しい。最大派閥の町村派の支援を仰いでいるが、同派は中川秀直元幹事長ら「反麻生」の実力者が牙を研いでおり、決して一枚岩ではない。

 定額給付金や消費税増税などの政策決定過程を見ると、麻生周辺は与党内調整や根回しの「技術」を欠き、自民、公明両党間の溝を広げてしまった。麻生にどれだけ「スタミナ」があるかは未知数だが、激務とストレスのせいか、周辺からは「首相がだんだんやせていくのが心配」という声が出ている。