(英エコノミスト誌 2014年2月8日号)

ブラジルの大統領は自身の采配の結果、再選に向けた厳しい選挙運動を前に経済対策を講じる余地がほとんど残っていない。

ブラジル大統領、デモ受け訪日を延期

再選をかけて戦うジルマ・ルセフ大統領〔AFPBB News

 ブラジル人は自分が窮地に陥った時、「サイア・ジュスタ(タイトスカート)」をはいていると言う。普段はパンツスーツを好むジルマ・ルセフ大統領だが、今はまさにそんな状況に置かれている。

 ルセフ氏は月内に、10月5日に予定されている大統領選挙で2期目を勝ち取るための選挙運動を開始する。2006年と2010年の選挙前もそうだったように、通常、政治サイクルのこの段階では、政府が支出を増やしている。

 だが、1月にダボスで開催された世界経済フォーラムで壇上に上がったルセフ氏は、サンパウロの株式市場とブラジルレアルが他の新興国とともに急落するなか、厳格さを誓うコミットメントを強調しなければならないと感じた。

ルセフ政権下で失望を招いてきたブラジル経済

 ルセフ氏が政権を握った2011年1月以降、ブラジル経済は失望を招いてきた。経済成長率は平均して年間わずか1.8%で、インフレ率は6%前後で推移し、経常収支の赤字は国内総生産(GDP)比3.7%まで膨れ上がった。ルセフ政権には都合のいい言い訳がいくつかある。前政権から過熱する経済を引き継いだこと、世界経済が伸び悩んでいること、また、欧米の低利資金が過剰なレアル高を招いたことなどだ。

 だが、ルセフ氏も何点かオウンゴールを入れてしまった。前任のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ前大統領は金融政策を中央銀行に委ね、自らは主に明確な財政目標の達成に専念した。それに対してルセフ氏は中央銀行に利下げを強要し、政府関係者は助成金で投資判断を細かく管理し、財政上のダメージを会計操作でごまかそうとした。

 その結果実現したのは、約束された成長の回復ではなく、むしろブラジルの実業家と外国人投資家が政権の経済チームへの信頼を失うことになった。しかも最悪のタイミングでの信用失墜だった。何しろ米連邦準備理事会(FRB)が昨年、国債購入の「テーパリング」の可能性を示唆するとレアルは下落し始め、現在は対ドルで昨年5月時点より17%も値下がりしている。

 対外収支を均衡させ、製造業を繁栄させるのであれば、レアル安はまさにブラジルが必要としているものだ。だが、通貨安はインフレを昂進させる危険性もはらんでいる。実際、インフレ率の上昇は(お粗末な公共サービスとともに)、昨年ルセフ政権を揺さぶった大規模なデモの一因だった。

 この騒動が心変わりを促した。中央銀行のアレシャンドレ・トンビニ総裁は利上げを許され、金利は7.25%から10.5%に引き上げられた。ダボス会議では、ルセフ氏は初めて、インフレ率を4.5%まで引き下げることを目標としていると言明した。それまでは同氏は、インフレ率が2.5~6.5%という目標レンジの上限を下回っていれば満足な様子だった。

 ルセフ氏の政界の師であるルラ氏は「間違いなくジルマに、金利のせいで選挙に負けることはないだろうが、インフレで負ける可能性はあると教えただろう」と、反政府派のシニアエコノミストは指摘する。