3月2日(現地時間)の授賞式を前に、日本でもアカデミー賞候補作が続々と公開となっている。『ゼロ・グラビティ』(2013)と並び最多の10部門にノミネートされているデヴィッド・O・ラッセル監督作『アメリカン・ハッスル』(2013)も先週末封切り。

BIG5にノミネートされた注目作

アメリカン・ハッスル

 「BIG5」と呼ばれる主要部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本もしくは脚色賞)に加え、助演男優賞、助演女優賞にもノミネートされている注目作である。

 アメリカの「名前のない馬」、ドナ・サマーの「アイ・フィール・ラブ」、エルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリックロード」といったヒット曲をバックに、ファッション、ヘアスタイルなど1970年代の雰囲気たっぷりに描く詐欺師の三角関係の物語は、政治と権力の闇を見せる社会劇でもある。

 「Hustle」という言葉には精力的な響きがあるが、詐欺、いかがわしいカネ儲けといった意味もあるのだ。

 ラッセル監督は、昨年も『世界にひとつのプレイブック』(2012)で同様のノミネート、さらにその前作『ザ・ファイター』(2010)でも作品、監督、助演男優、助演女優、脚本賞候補となっており絶好調。

ザ・ファイター

 単なるドラマとしても十分楽しめるが、「Some of this actually happened」と始まるこの作品が描くのは、1970年代終わりから80年代初め、米国を騒然とさせた「アブスキャム事件」。

 50代以上の米国人には知られているものの、日本人にはまるで馴染みのないこの事件の背景を少しでも知っていると映画はより楽しくなる。

 アラブのシークが出資する架空の会社「Abdul Enterprises」を舞台とした「scam(騙し)」ということからFBIがつけたコードネームが「Abscam」。

 「ミスター・ラスベガス」ウェイン・ニュートンも騙したという天才詐欺師を、1978年、FBIが雇用。秘密捜査員も加わり、そのでっち上げの会社を使い設定した収賄現場をビデオに収め、6人の国会議員を含む政治家たちを辞職に追い込んだのだった。

 こうした「おとり捜査」のことを英語では「Sting operation」という。「Sting」とはポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演の傑作ペテン映画『スティング』(1973)の内容そのものに「騙す」ことだが、もともとの意味は虫が「刺す」こと。