MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

(1)診療報酬改定

 「財政再建に禍根残す診療報酬の増額改定」「診療報酬改定 制度維持へ実質下げは妥当だ」これは来年度の診療報酬が、0.1%(!!)増額されることが決まった時の日本経済新聞と読売新聞の見出しである。

 全体の流れは決して明かすことなく、前年比のみを取り上げ、「病院の経営状況が良好にもかかわらず、新たな国民負担を強いるのは理解が得られない」という詭弁。

 2002年から4回の診療報酬減額で医療機関は青息吐息だった。その後の2回のプラス改定で一部の医療機関に改善傾向を認めるもののいまだ半数近くの医療機関が赤字である。今回1.36%の消費税分の診療報酬が増額されるそうだが、そもそも今までの5%の消費税に対する手当てからして不十分である。

 確かに消費税が5%になった時、診療報酬は合計で1.53%引き上げられたが、その引き上げ方は30数項目の点数の加算のみ。それさえその後の診療報酬減額で点数は減額され、うやむやになっている。現在も毎年の5%消費税分の損税が各医療機関に重くのしかかっている。

 医療機関の損益分岐点は近年94%前後。これは数%収入が落ちれば赤字に転落する危険水域にあるという意味である。一般に損益分岐点は80%程度が優良企業の目安と考えられる点からすると、医療機関は極めて異常な状態に置かれている。数%の消費税が命取りになる理由が分かるであろう。

 新規の開業医は開業時に1億円前後を借り入れる。来院患者数を予測し返済計画を立てる。医療機関は価格設定が自由にできないので、予想通りの来院数で軌道に乗っても前提となる診療報酬がいじられてしまうとどうしようもない。

 倒産の危機に面した医療機関はどうするか。できることは4つ。余分な検査をする。頻回に受診させる。長時間労働をする。自費診療部門を充実させる。これしかない。筆者は何とか後ろの2つでやっているが、前者2つに手を出す気持ちも分かる。

 日々の返済を気にしながらでは良い医療は提供できない。ほとんどの医療者はお金儲けのために医療を提供しているわけではない。後出しじゃんけんはやめていただきたい。

 救急患者「たらいまわし」の大合唱により、重症患者向けの病床に高い点数をつけたため、2006年度の改定から各医療機関は生き残りをかけて救急へとシフトした。その結果急性期病棟は以前の8倍に増えてしまった。

 すると今回政府は何と言っているか。「急性期病院が増えすぎて無駄の原因になっている。今後の改定で要件を厳しくしてこれを絞り込む」。

 何をかいわんや。政治家はまず医療に対するビジョンを述べよ。医療をどうしたいのか。小手先の点数の付け替えに終始している場合ではない。根本的な制度設計の不備が、医療機関が赤字にもかかわらず、営利企業である製薬会社や医療機器メーカーが大黒字となる原因である。

 決して医師の偏在や医療の無駄が解消されれば解決するようなものではない。診療報酬を増額できないのなら、医療機関から搾り取っていく営利企業を放置してはいけない。