(英エコノミスト誌 2014年1月4日号)

デンマークは小さな国だが、農業では超大国だ。

 デンマーク中部のホーセンスにある屠畜業者デニッシュ・クラウンの食肉処理施設には、平日毎日2万頭のブタが運ばれてくる。巨大なハエ叩きのようなものを手にした作業員に誘導され、ブタは足早にスタニング場(ブタを失神させる場所)へ入っていく。

 その後、さかさに吊るされ、二等分され、剛毛を剃られ、きれいに熱湯消毒される。機械で細かく切り分けられた後、冷却され、骨が取り除かれ、包装される。

 この食肉処理場は巨大だ。サッカー場10面分の長さの敷地に、総延長11キロのベルトコンベアが走っている。マネジャーたちはごく細かなことにも注意を払う。ハエ叩きを持つ作業員は、白ではなく緑色の作業着を身に着けている。その方がブタの気持ちが落ち着くからだ。

 切断機では、まず屠体の写真を撮ってから、体にぴったり沿うように刃が調整される。デニッシュ・クラウンが調整しているのは、肉の切り方だけではない。各部位が最も高く売れる国も細かく見極めている。例えば、ベーコンは英国へ、豚足は中国へ送られる。

 デンマークは人口560万人の小さな国で、人件費も高くつく。だが、3000万頭のブタを飼育し、数々のグローバルブランドを擁する農業大国だ。

 2011年には、農産品は製品輸出の20%を占めた。食品輸出額は、2001年には40億ユーロ(55億ドル)だったが、2011年には161億ユーロにまで成長した。デンマーク政府は、2020年までに、さらに67億ユーロの輸出増を見込んでいる。

ITだけでなく古い産業にも適用できるクラスターの論理

 一体なぜ、経済が脱工業化した国で、食品産業がいまだに栄えているのだろうか? その答えの大半は、デンマークの中部に集中する産業クラスターにある。どこの国の政策立案者も、自国版のシリコンバレーを作ろうと躍起になっている。だが、デンマークの例は、新たな産業と同様、古くからある産業にもクラスターの論理を応用できることを示唆している。

 デンマーク中部では、ちょうどカリフォルニアと同じように、イノベーションのムードが充満し、生産性の向上が基本的な方向性となり、全体が各部分の総和よりもはるかに大きくなっている。起業家たちは食肉と牛乳に将来性を見いだしている。

 デンマーク中部の農産クラスターには、デニッシュ・クラウン、アーラ・フーズ、ローズ・ポルトリー、デュポン・ダニスコといった複数の大企業も含まれており、そうした会社が主要な投資家として機能している(2011年のデュポンによるダニスコ買収は、米国の多国籍企業によるデンマークの主要企業の買収に対する大きな懸念を生んだが、デンマークの農業分野の活力の証しでもある)。