(英エコノミスト誌 2013年12月14日号)

金正恩氏は、北朝鮮をこれまで以上に恐ろしい国にするという、信じ難い離れ業をやってのけた。

北朝鮮、「反逆者」張成沢氏を処刑

労働党中央委員会政治局拡大会議で、警備員に連行される張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長を写したとされる画像〔AFPBB News

 謎が解けた! 北朝鮮の幹部らは長年、同国が無煙炭と石灰石から作っている素晴らしい合成繊維、ビナロンが、世界市場で圧倒的な地位を得ていない理由について頭を悩ませてきた。実際には、ビナロンは北朝鮮以外の国では使われていない。

 1950年に北朝鮮に亡命した韓国人が開発したとされるビナロンは、自立を掲げる北朝鮮の政治思想である主体(チュチェ)思想の成果に位置づけられている。しかし、ビナロンはナイロンなどの他の製品に後れを取っている。

 何かと言えば北朝鮮をこきおろしている国外の人たちは、その理由を、ビナロンは堅くて染めにくく、品質が悪いのに高価だからだと主張する。

 ところが実は、ビナロンの成功のチャンスをぶちこわしたのは、北朝鮮国内の政治的陰謀だったのだという。

 北朝鮮の国営通信社、朝鮮中央通信は12月9日、「財政管理システムを混乱状態に陥れる」などの背信行為によって、悪党の「張一味」が、同国の2人の偉大な指導者、故金日成(キム・イルソン)氏と故金正日(キム・ジョンイル)氏が命じた、主体ビナロンの発展を不可能にしたと報じた。そして今、この一味は当然の報いを受けているのだという。

 さらに同じ一派は、主体肥料と主体鉄についても、妨害行為を行ったとされる。一派を率いる張成沢(チャン・ソンテク)氏は、その邪悪な意図を最も欺瞞的な見せかけの仮面、すなわち北朝鮮の若き独裁者、金正恩氏の義理の叔父であり後見人であるという立場に隠していたという。

粛清に3つの驚き

 張氏の粛清には異例な点がいくつかある*1。まず、張氏が極めて高い地位にあったことだ。実のところ、どの程度重要な人物だったのか、正確にはいつ失脚が始まったのかについては、専門家の間でも意見が分かれている。

 とはいえ、張氏は金正恩氏の父親で前の指導者である金正日氏の妹、金敬姫(キム・ギョンヒ)氏と結婚している。夫妻はどちらも朝鮮労働党政治局のメンバーで、朝鮮人民軍でも大将の階級にあった。

 さらに大多数の観測筋は、金正恩氏への権力継承において、張氏が中心的な役割を果たしたとの見解で一致している。父親の金正日氏は2011年に死去する少し前に、兄たちを差し置いて正恩氏を高い役職に就けた。リーズ大学の北朝鮮専門家、エイダン・フォスター・カーター氏は、義兄の金正日氏の葬儀で、張氏が棺を乗せた車の傍ら、新指導者である正恩のすぐ後ろにいた点を指摘している。

*1=この記事が出た後に、張成沢氏が「国家転覆の陰謀行為」で処刑されたことが発表された