(英エコノミスト誌 2013年11月30日号)

連立合意で提案されているドイツ新政府は、欧州のエンジンを低速に入れようとしている。

ドイツ、与党と社会民主党が連立合意 最低賃金制導入へ

ドイツで再び大連立が誕生する見通しとなった(写真は連立樹立合意についての記者会見を行ったアンゲラ・メルケル首相=中央=と社会民主党=SPD=のジグマル・ガブリエル党首=左)〔AFPBB News

 端から見ると、ドイツは恐ろしいマシンに見える。極めて効率の高いドイツ経済はユーロ危機を切り抜けただけでなく、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドといった国々の崩壊を防いだ緊急修復費用の大半を負担した。

 ドイツの輸出品は世界中の市場を席巻している。アンゲラ・メルケル首相は、誰もが認める欧州連合(EU)のリーダーとして君臨している。

 しかし、奇妙なことに、ドイツ国民自身はそのようには見ていない。多くの国民がドイツは格差と蔓延する冷たい資本主義に脅されていると考え、不安感と恐怖心を抱いている。そして自分たちは貧しいと感じている。

 この認識のズレは、5週間にわたる協議と17時間の最終討議の末、11月27日未明に合意に至ったドイツの新連立政権が、まさにドイツを成功に導いた改革の一部を後退させてしまう恐れがある政策で団結した理由を説明するのに役立つ。

 メルケル氏率いるキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)と中道左派の社会民主党(SPD)による「大連立」を樹立する合意は、まだ今後、SPDの全党員47万人による投票で承認を得なければならない。12月14日に判明する見込みの投票結果は、全く確実ではない。

 しかし、もしSPDの投票で可決されれば、メルケル氏はクラフトヴェルク(クラフトワーク)*1の時代を彷彿させるような左派色の濃い政策目標を背負い込むことになる。メルケル氏がその伝説的な政治手腕を駆使し、そうした案を骨抜きにしたり、いっそのことすべて葬り去ることができなければ、ドイツは面倒な事態に陥るだろう。

 なぜかと言えば、ドイツ経済は過去の栄光――特にメルケル首相の前任者であるゲアハルト・シュレーダー氏が2003年に着手した一連の改革「アジェンダ2010」――のおかげで食いつないできたからだ。だが、経済は息切れし始めている。

 過去10年間の労働生産性の伸びは、スペインのそれの半分以下だ。国内総生産(GDP)に対する公共・民間投資の割合は17%と、ユーロ導入以降、2割以上落ち込んでいる。欧州では、ユーロ危機の勃発以降実行した改革がドイツより少ない国は1つもない。

東ドイツ時代に逆行

 185ページに渡る「連立協定書」は、新しい改革策を打ち出すチャンスだった。ところが協定書の提案は、的外れな策(外国人がドイツの高速道路を利用する際に課金することなど)と有害な策が入り混じったものだ。

 例えば、連立協定書は、全国一律で時給8.50ユーロという新たな最低賃金を定めている。これは比較的高く、特にドイツ東部では高い。東部では時給6ユーロしか支払わない企業もあるため、最低賃金は失業をもたらす可能性がある。

*1=1970~80年代に世界的にヒットしたドイツのテクノバンド