2013年8月、中国メディアの「消費者報道」が、ある日本人を取り上げた。記事のタイトルは「鈴木喜計;中国急需为土壤污染立法(鈴木喜計さん;中国は土地汚染の立法化を急げ)」。日本人専門家が中国の土壌汚染に警鐘を鳴らすという内容であった。

 2012年の反日デモ以来、中国メディアが日本人を取り上げるケースは少なくなった。ましてや大国意識を強める中国が、日本の経験に学ぶという姿勢はなおさら希薄だ。そんななかで、このインタビューは、中国の土壌汚染を克服するために日本の技術や経験に学ぼうという意図を含む、昨今珍しい記事でもあった。

 千葉県木更津市で「君津システム」という会社を経営する鈴木喜計(すずき・よしかず)さんは、公害問題の専門家でもある。特に土壌・地下水汚染の分野では、独自の調査・浄化手法を自ら開発、体系化し、学会や行政プログラムを通じて3000人を超える国内外の研究者・技術者を輩出している。

 また、環境地質学を創造した研究者であり、国内外で150を超える汚染現場の完全浄化を果たした「土壌・地下水汚染の調査と浄化の第一人者」である。日本では2003年から「土壌汚染対策法」が施行されたが、この立法化にも尽力した。

「こりゃダメだ」と思った肥料工場跡地

 鈴木さんの調査研究や技術開発は、今や中国も注目するところとなっている。

 「消費者報道」の記事は、鈴木さんが2008年に広東省の肥料工場の跡地を訪れたときの様子を取り上げている。この土地は、中国最大手のデベロッパー、万科企業がマンション開発をした敷地で、汚染された土地の上で進行する建設をめぐり住民との対立が続いていた。記事は、汚染状況を測定した鈴木さんを次のように描写した。