堤清二さん=辻井喬さんの訃報が知らされました。11月25日の早朝、肝不全とのこと。本当に残念でなりません。

 この3年来、私は辻井さんと「福島以降の能オペラ 煌きの河/幸福の島」というコラボレーションを進めていました。また現在上演している東京アートオペラ「トリスタンとイゾルデ」立ち上げの最初期、最も熱心に応援してくださったのも辻井さんでした。

 過日ご招待状をお送りし、秘書室からのご返信をお待ち申し上げる形になっていたところでありました。

 本当に残念です。40年待って、やっとご一緒して仕事が始まったばかりでした。昨年の4月には、清二さんは福島の被災地を私が運転するレンタカーで一緒に回って下さり、浜通りの新地町では中学生の子供たちと対話の場を持ちました。

 毎月1回のペースで「能オペラ」の打ち合わせを進めつつ、昨年の11月16日、東京ドイツ文化センターでのミニシンポジウムでご一緒したあと、ご体調を崩されました。コラボレーションは中断したままになっていたのですが、なんとか私1人でも完成させねば、と思っています。

セゾン文化のエッセンスから「トリスタン」へ

 いま私たちが上演している「トリスタンとイゾルデ」は、極めて忠実に原典に遡りながら、でも具体的な意匠は21世紀日本の同時代に設定して、という形で作っています。

 こうした上演の形は、堤さん=辻井さんとのディスカッションの中で、もとはゲーテ「ファウスト」を引用する私たちの「福島以降の能オペラ」について出てきたものでした。

 驚くほど今日の福島の状況と重なり合うゲーテ「ファウスト第二部」末尾をそのまま引用しつつ、一切値引きのない21世紀日本の問題を考え、問いかけとしての上演を考えたい。

 清二さんからは昨年11月、コスチュームについては三宅一生氏を加えてのブレーンストーミング、ディスカッションを、と提案がありましたが、結局実現しませんでした。残念です。

 本当に明晰な方でした。今回の「トリスタン」で導入した「ジーンズシート」という安価の学生席も、辻井さん=清二さんが京橋に「セゾン劇場」を作られ、そこで導入したもので、ピーター・ブルック「マハーバーラタ」など、世界トップ水準のプロダクションを、私たち当時の若者は安価に、普段着の感覚で、存分に吸収させてもらうことができました。