マット安川 日本に住んで20年近く、ウイグル問題の啓発を続けるトゥールさんを迎え、日本ではなかなか知り得ない生のウイグルの話や天安門自爆テロ、イスラム教と日本の関係など、幅広くお聞きしました。

ウイグル人の日常は悲惨、人間以下の扱いを受けている

トゥール・ムハメット氏
任意団体中央アジア研究所代表、世界ウイグル会議研究センター副長。民間会社勤務。日常の仕事の傍ら、ウイグルの人権問題を日本で訴え、執筆や講演活動をしている。(撮影:前田せいめい、以下同)

ムハメット 私は1994年に来日しました。97年、大学院生の時にウイグルでデモがあり、中国政府が弾圧して約100人の若者が殺されました。

 それに怒りを感じて、事件を日本の人たちに訴えた結果、私は中国政府と対立する立場になり帰国できなくなってしまいました。以来ずっと日本で仕事をしながら、ウイグルの人権問題を日本社会に訴える活動を続けています。

 ウイグルの面積は日本の約4倍あり、約2400万人が住んでいます。そのうち約45%がウイグル人です。ウイグル人は古くからここで農業や遊牧をして暮らしてきました。もともとこの地域の主人公はウイグル人であり、中国人ではありません。

 しかし、ウイグルの日常は非常に悲惨なもので、自分の国である東トルキスタンで、3等市民、4等市民、あるいは人間以下の扱いを受けている状況です。地獄で生きているような、刑務所の中で生きているような感じです。

 中国政府のウイグル人、チベット人を支配する手法というのは非常に巧みです。これはひと言では伝えきれない巧みさです。政治的、経済的、文化的、宗教的、外交・軍事などありとあらゆる手段を使って、ウイグル人、チベット人を追い込んでいくわけです。

 例えば、宗教的な問題を取り上げますと、中国共産党は、宗教は人々を毒する麻薬であると考え、否定しています。

 我われウイグル人はムスリムでイスラム教を固く信じています。しかし、中国共産党は、イスラム教を信仰するということは共産党を信じないということになるので、若い人に対して無神論の教育を行うわけです。

 アッラーを信じる心を否定して、モスクに行かせない。男性はムスリムの象徴としてあごひげをはやしますが、あごひげをはやした男性を警察が捕まえて、強制的に剃らせる。剃らない場合は罰金、または刑務所に入れられることもあります。

 女性は、外では肌や髪を見せないように全身を覆う格好をしますが、そういう女性を取り締まって、強制的に髪を出すように、肌を見せるようにさせる。こうしたことに対してムスリムが怒るのは当然です。

天安門前に車が突入した事件はテロではない

 そうした怒りが、今年10月28日の天安門のような事件を引き起こしたのです。車で天安門前に突っ込むという今回の事件は、中国指導部にショックを与えました。中国政府はもちろんテロ扱いして、東トルキスタンイスラム運動の組織的な犯行だと発表しました。それはとんでもないデッチ上げです。