ロシアには現在、世界一の石油会社ロスネフチと世界一のガス会社ガスプロムが存在します。共にロシアの国策会社です。ロシア一の原油生産量を誇るロスネフチは今年、ロシア第3位の石油会社TNK-BPを吸収合併して、(上場会社としては)世界一の原油生産量を誇る石油会社に変身しました。

前門の虎・後門の狼・獅子身中の虫

欧州への天然ガス供給、再びストップ ロシアとウクライナは非難合戦

モスクワのガスプロム本社〔AFPBB News

 ガスプロムも世界一の天然ガス生産量を誇るガス会社にして、前身は旧ソ連邦ガス工業省です。旧ソ連邦石油工業省はソ連邦崩壊前後の混乱の中で、生産公団や油田鉱区ごとに解体・分裂していきます。

 一方、時のチェルノムィルジン・ガス工業相はガス工業省の分裂・解体を防ぎ、ガス産業の統一性(探鉱・開発・生産・輸送・販売)を維持すべく、1989年に国策会社ガスプロム・コンツェルンを創設して、自らが初代社長に就任しました。

 天然ガスは輸送手段としてのパイプライン網が整備されていないと輸送も輸出もできないので、組織としての統一性に腐心したのです。

 旧ソ連邦は1991年末に解体され新生ロシア連邦が誕生しますが、組織としての一体化維持に成功したガスプロム・コンツェルンから欧州向け天然ガス供給が途絶えたことはなく、同社は混乱した新生ロシア連邦の中において、外貨の稼ぎ頭となりました。

 同社のチェルノムィルジン社長が1992年末に新生ロシア連邦の首相として転出したとき、「チェルノムィルジンはガスプロム社長から首相に左遷された」と揶揄されたものでした。

 同コンツェルンは1993年初頭ガスプロムスに変身しますが、文字通り国家の中の国家となりました。

 その名門ガスプロムが今、内外からの競争激化に呻吟しているのです。

ガスプロム/2008年当時の現状認識と現在抱える問題点

 ロシアでは2008年10月に≪2030年迄のロシア天然ガス産業総合発展綱領≫案が発表されましたが、2008年当時のガスプロムの現状認識は下記の通りでした。

◆ 既存の西シベリア・ガス田においては今後、天然ガス生産量は急速に減少する。
◆ ゆえに、新規ガス田の探鉱・開発が喫緊の課題となる。
◆ しかし、新規ガス田は気象・環境・開発条件の厳しい地域に位置する。

 上記よりお分かりのごとく、ガスプロムは2008年の時点で、自社を取り巻く現状を正しく認識していたことになります。問題は正しく現状認識していながら、適切な対策を講じることができなかったことです。

 その結果、国内にては競合他社の台頭を許し、国内の天然ガス販売市場では一貫してシェア低下。欧州天然ガス市場においても、ガスプロムのシェアは年々低下しています。