(英エコノミスト誌 2013年11月16日号)

カメラがいたるところに存在し、写された人を特定できるようになっていることから、プライバシー保護の強化が必要になる。

 「今シーズンの海辺には、サメよりも恐ろしいものが現れた」。1890年のある新聞記事はこう書いている。「それはアマチュアカメラマンだ」。コンパクトカメラの発明は、ビーチを歩き回り、日光浴を楽しむ人たちを写真に収める「コダック・マニア」とともに、19世紀の社会の肝をつぶした。

 それから1世紀あまりが経った今、アマチュアカメラマンがまたもや厄介な問題になっている。先進国の市民は、街路を守る監視カメラに見られていることに慣れた。だが、カメラが小型化し、データ保存のコストが下がるにつれて、そうした映像を個人が撮影するようになっている。

メガネごしの暗い視線

「グーグル・グラス」向けアプリ、フェイスブックやツイッターが発表

既に1万人ほどが試作品を使っている「グーグル・グラス」〔AFPBB News

 「グーグル・グラス」はメガネのように着用する超小型コンピューターで、既に1万人ほどが試作品を使用している。グーグル・グラスの狙いは、スマートフォンのあらゆる機能を、鼻の上に乗る小型機器で再現することにある。

 柔軟なフレームには、カメラと小型ディスプレイが搭載されている。ユーザーは写真撮影やメッセージ送信、オンライン検索を簡単に行うことができる。

 グーグル・グラスは失敗するかもしれないが、もっと大きな革命が進行していることは確かだ。保険金詐欺がはびこるロシアでは、少なくとも100万台の車のダッシュボードにカメラが設置され、前方の道路を撮影している。米国の警察は、警官の制服にビデオカメラを装着させ始めている。市民とのやりとりを記録するためだ。

 猫の首輪につける小型カメラは、心配性の飼い主が、あちこち歩き回る飼い猫の動きを追うのに役立っている。パパラッチは無人航空機を利用して、自宅の庭やヨットの上にいるセレブたちの写真を撮るようになった。カメラをうまく宇宙に送り込む方法を、趣味で考案しようとしている人々さえいる。

 カメラによる記録の遍在化は、既に多くの恩恵をもたらすことができる。脳に損傷を負った患者の治療のためにカメラを活用する事例もある。画像を見直すことで、記憶の回復が促進されるからだ。車載カメラは、保険金請求を巡る問題の解決に役立ち、同時に安全運転を促している。

 警官の装着するカメラは、犯罪者が警官に対して根拠のない苦情を申し立てるのを阻止し、警官による拘留者の虐待も防いでいる。英国のある兵士は、同僚のヘルメットのカメラが撮影した画像が証拠となり、負傷したアフガニスタン人の殺害で有罪判決を受けたばかりだ。

 熟練の外科医や技師の視線の動きをとらえた動画は、技術の継承者の訓練に効果を発揮し、法的責任を巡る争いの場でも活用できる。視力の弱い人のためには、コンピューターとリンクしたレンズが、道路標識や商品ラベルを読み取っている。

 小型カメラの未来を楽観する人々は、さらに幅広い恩恵を期待している。自分の運動量や睡眠パターンをモニタリングするために、アクティビティトラッカーを手首につけたりポケットに入れたりしている人は多い。カメラなら、その役目をもっと効果的に果たせるはずだ。装着者の食事を監視することも可能だろう。