中国が海洋進出に当たって、主敵と考えるのは米国である。それは、本年6月に訪米した習近平国家主席が、米中首脳会談で表明した「新しい大国関係」、すなわち2大大国(G2)論や「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」との発言、そして中国がかつて太平洋を米国と共同で管理しようと提案したことなどに端的に表れている。

中国の主敵は米国、そして日米同盟

 他方、米国は、中国の海洋進出を抑止すべく、ピボット(pivot)あるいはリバランシング(rebalancing)によってアジア太平洋重視の戦略に転換するとともに、日米同盟の下、日本をアジア太平洋地域における「要石(キー・ストーン)」と位置づけ、「日本有事」(安保条第5条事態)における共同防衛のみならず、「極東有事」(同第6条事態)における不可欠な作戦・兵站基地としての重要な役割を期待している。

 つまり、中国の海洋進出の最大の障害は米国であり、そのアジア太平洋戦略を中心となって支える日米同盟であることは議論の余地がなかろう。

 真の同盟とは、共に相手国の国益と自主性を尊重しつつ、全面的・一方的な依存関係ではなく、必要に応じて相互に援助し協力し合う体制でなければならない。

 その点を踏まえ、目下、我が国では、中国や北朝鮮などの脅威の顕在化に実効的に対応するため、集団的自衛権を容認し、同盟を相互協力・相互依存の本来あるべき関係に修正して、その片務性を解消すべきであるとの意見が強まっている。

 そして、元防衛大臣の石破茂自民党幹事長は、11月6日の民間放送の番組で、集団的自衛権の対象国をフィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナムを例示して、中国の海洋進出を防ごうとしている共通の課題を持った国にも拡大すべしとの考えを示した(この背景には、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスの低下という問題があろう)。

 上記の議論は、日本の安全ならびに極東における国際の平和及び安全を維持する上で、極めて的を射たものであり、その具現化が切に望まれるが、その新たな要求に対して現有の自衛隊の能力・態勢をもって十分に対応できるのか、との疑問が生じてこよう。

 なぜなら、米軍への「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」と日米共同作戦の無力化を策しつつ発動される中国の軍事作戦は、大きな広がりを持ち、「日本有事」と「極東有事」を同時並行的に引き起こす可能性が高いからである。

中国の国家目標と軍事戦略:焦点は、日本~台湾~フィリピン~ベトナム

 中国の国家目標は、江沢民総書記以降、特に強調して述べられるようになったが、「中華民族の偉大な復興」である。

 「中華民族の偉大な復興」とは、「漢民族中心の国家建設」ならびに「富強(富民強国)大国の建設」であり、時期的には中国共産党創設100周年に当たる2021年を中間目標とし、最終目標は中華人民共和国創建100周年に当たる2049年としている。

 「中華民族の偉大な復興」の地理的範囲は、明らかではない。