(英エコノミスト誌 2013年11月9日号)

米国でも欧州でも中央銀行の人たちは物価を押し上げるべきだ。

 中央銀行の人たちの主な仕事は何か? 普通の人に聞けば、恐らくは「インフレを抑制すること」というような答えが返ってくるだろう。一般的な認識では、そして中央銀行の人たち自身の心の中でも、中央銀行の人間は1980年代に先進各国の経済から高いインフレを締め出した技術者であり、その信頼性はインフレを低く抑えることに基づき、それゆえ物価が高騰し始めないよう常に警戒していなければならない。

 だが、この見方は危険なほど時代遅れだ。先進国の中央銀行が現在直面している最大の問題は、インフレ率が低すぎるということだ。

 ほとんどが先進国で構成される経済協力開発機構(OECD)の平均インフレ率は1.5%と、2012年の2.2%から低下し、中央銀行の公式目標(通常2%かそれをわずかに下回る水準)を大きく下回っている。インフレ率の低下が最も危険なのは、ユーロ圏だ。10月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比でわずか0.7%と、1年前の2.5%から大きく低下している。

 これは部分的にはコモディティー(商品)価格が下落しているためだが、変動の激しい食品と燃料価格を除いても、ユーロ圏の「コア」指数で見たインフレ率は0.8%と、単一通貨が始まって以来かつてないほど低い。

 米国では、総合指数が9月に1.2%となり、7月の2%から下落している。そして、米連邦準備理事会(FRB)が定義するコア・インフレ率はずっと1.2%にととどまったままで、底に近い水準にある。先日は、FRBの中に一段と緩和的な金融政策を望む者がいることを仄めかす動きが見られた。

 確かに、15年に及ぶ物価下落からようやく抜け出したように見える日本では状況が改善しつつあるが、日本でも基礎的なインフレ率はまだゼロだ。物価が大きく上昇している唯一の先進経済大国は英国で、ここでは全般的なインフレ率が2.7%だ。

あの無力感

 これらは気がめいるような数字だ。低すぎるインフレの最も明らかな危険は、物価が持続的に下落する完全なデフレに陥るリスクだ。日本の経験が示すように、多額の債務を抱えた弱い経済では、デフレは極めて有害であるとともに抜け出すのが難しい。借り入れは名目ベースで固定されているため、賃金や物価の下落は借入金を返済する負担を重くする。

 また、ひとたび人々が物価が下がり続けると予想すれば、モノを買うのを先送りし、それが経済をさらに弱くする。南欧ではこれが起きるかもしれない本当の危険がある。ギリシャの消費者物価は今、下落しており、1度限りの増税の影響を除くと、スペインの物価も下落している。

 米国と北部欧州では、デフレはそれほど差し迫ったリスクではない。ほとんどの経済は、ゆっくりとではあるが成長している。またいくつかの調査では、消費者がまだ中期的なインフレが2%という中央銀行の目標値になるか、それを上回ると予想していることが示されている。