正社員として採用するときに、親のところに挨拶に行きました。するとお母さんは快く対応してくれたんですけど、お父さんが最初しゃべれへん。息子と同じで無口なのかなと思ったら、いきなりしゃべり出した。何言うかと思ったら、うちはあんたみたいなちっこい会社に息子をやらすつもりはないんや、こいつが勝手に行く言うからしゃあないやろと。退職金なんぼ出せんねん、あんたのとこにそんな制度ないやろと言い出しよる。

 私は、彼に頑張ってもらって退職金も出せるような会社をつくります、そのために一緒に力を合わせて頑張ろうと言っています、と説得しました。すると、こいつが決めたことやからしゃあない、おれは嫌やけどしゃあない、みたいなことを言われて、私も腹が立ったけどそこで言い返しても意味がないので引き下がりました。

 その社員は入社して間もなく車を買いました。20歳じゃ普通は買えないような高級車です。維持費が大変だからガソリンカードを会社で買って渡してあげました。福利厚生が整っていない中小企業としては最大限のことをしてあげたいと思ったんです。結婚するときもお祝金と冷蔵庫、クーラー、洗濯機などプレゼントしてあげた。

 でも、結局、彼も辞めていきました。手取りで25万円はないとあかんと嫁さんに言われたらしい。それまで、彼は残業して手取りで30万近くはあったんですよ。けれども「25万以上もらえる運送会社での仕事を見つけたので辞めます」と言って辞めていきました。

──そこまでしてあげたのに辞めてしまうんですか。

藤原 そのとき思ったんですね。いままで一生懸命社員を育ててきたけど、自分の勝手な思い込みでやってるだけやったと。

 社員は、会社がいろいろ面倒見てくれるのは当たり前や、経営者が勝手にやっていることやからありがたく受け取ったらええんやと思っている。会社や仕事への特別な思いはないんです。だから簡単にすっと辞めていく。

 私は、この会社にはなんか足らんと思って、ずっと社員と勉強会をやっていました。でも、勉強会にしても自分の思いをしゃべっているだけやった。経営理念もなかったから、会社がどこに行くか分からんような勉強会をやっていたんやね。

日本一の会社を目指そうと誓ったが・・・

藤原 そんな時期に友人の紹介で中小企業家同友会(注:中小企業の経営者が集い、互いに学び合う団体。47都道府県ごとにそれぞれの地域の同友会がある)に入会しました。同友会では、私の求めていた企業づくりが理論的に成文化されていて、それを学ぶ仕組みもありました。

 同友会に入って初めて経営理念の大切さというのを知って、経営理念をつくりました。そのときつくった理念は「技術力を磨いて日本一の会社になろう」というものです。