前回、コメの生産が大規模農家に集約された場合のシミュレーションを行いました。大規模専業農家にコメ生産を集約することが非現実的ならば、農林水産省は耕作放棄地の増加を防ぐためにどのような策を採っているのか。もしくは採ろうとしているのでしょうか。

減反の枠外で作られる「新規需要米」

 コメに「減反」と呼ばれる生産制限が行われていることはよく知られています。しかし近年、減反枠を超えたコメの生産が恒常的に行われるようになっています。加工米、米粉米、飼料用米などと呼ばれるコメです。これらは一般に「新規需要米」と呼ばれています。

 加工米とは、おかきやあられといった米菓や、味噌、酒(通常の酒米とは別扱い)など加工食品に使われます。米粉米は名前の通り米粉用で、これらはいわゆる飯米(はんまい)と呼ばれる、ご飯に使われる普通のコメと同じものです。飼料米には、家畜に米を食べさせる場合と、コメが成熟するまでに刈り取った稲をサイレージ(サイロに詰めて発酵させること)して食べさせる場合があります。こちらの場合は専用品種を使うこともあります。

 いずれの米も、ご飯の用途に使うことが禁じられているため、いくら作っても飯米の需要を圧迫することがないとされています。実際には、イオンの納入業者であった三瀧商事(三重県四日市市)など一部の悪質業者がこっそり飯米に転用していると見られ、偽装米を安く売って米の価格を押し下げているのでしょうが、表面的にはそういうことになっています。

 これらの新規需要米は減反の枠外にあり、価格が安かったり、買ってくれる業者を自分で探さないと作れないなどの制限があったりしますが、補助金による生産振興もあっておおむね農家から受け入れられています。

耕作放棄地はなぜ誕生するのか

 もともと米が余って減反をしていたのに、減反の枠外でこうしたコメの生産を振興するのは、農業界にいない人には理解が難しいかもしれません。

 減反政策が始まってから、農家は米を作りたくとも好きなようには作らせてもらえませんでした。減反率30%なら、3割の農地は、コメ以外の作物を作らなければならなかったのです。1ヘクタールの農地なら、コメが作られるのは70アール分だけで、30アール分は野菜など別の作物を作っていたわけです。これは、専業も兼業も同じです。

 前回説明したように、コメ以外の作物を作るとコメの何倍もの労働時間がかかりますから、農家は他の作物づくりに手を取られました。専業農家は、それでもなんとか回していたところが多かったようですが、いわゆる「三ちゃん農業」(父がサラリーマンに出て、じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの3人が農業をすること)で回していた兼業農家は、じいちゃんばあちゃんの高齢化によって次第に回せなくなってきます。