米国の国家安全保障戦略「2010NSS」が、バラク・オバマ大統領が就任して16カ月後の5月27日にようやく発刊された。

米国の安全保障3戦略文書、NSS、NDS、NMS

 この文書は、大統領就任150日(5カ月)以内に議会提出を義務づけられ、国防戦略「NDS」および軍事戦略「NMS」とともに安全保障から軍事に至る安全保障3戦略文書の最上位に位置するものだ。

 大統領就任演説およびその後出された4年ごとの国防見直し「2010QDR」や2010国防予算を通じ、ジョージ・ブッシュ政権と安全保障の方向性を大幅に変えると見られていたので、この発刊は米議会や世界各国から大いに注目されていた。

 国家安全保障戦略「NSS」は1987年に初公表されたが、近年ではブッシュ大統領の1期目に就任20カ月後、2期目に14カ月後とかなり遅れたことからすると、年度予算に直結する予算要求やその背景説明となるQDRが提出時期に忠実であるのに比べ、間接的で背景的説明文書であるためか必ずしも守られていない。

 それでも、核兵器のない世界や世界との協調を強く訴え、大きな変化を予感させたオバマ政権によるこの文書は、断片的に語られていた安全保障政策が包括的に出されたことに意味がある。

 文書の厚さも、2002NSSが35ページ、2006NSSが54ページであるのに比べ、2010NSSは60ページと、その内容もかなり充実した。

 トーンは、米国がいかに戦後世界の繁栄と安全保障のシステムを維持するため、海外事象にどのように関与するか、建国以来の米国の信条に照らし丁寧に議会と国民を説得するものとなっている。

国家安全保障戦略に対する新聞各紙の論調

 目次は、I概観、II戦略的アプローチ(基盤構築、包括的関与、公正で持続的な世界秩序)、III国益の増進(安全、繁栄、価値観、世界秩序)、Ⅳ結論 である。

 つまり、安全、繁栄、価値観および世界秩序という4つからなる国益の達成が2010NSSの目標であり、基盤構築、包括的関与、そして公正で持続的な世界秩序の増進という戦略的アプローチを通じてこれを達成することになる。

 まさに焦点は、21世紀に国益を追求できるよう米国のリーダーシップを更新・再生することにある。

 オバマ以前の国益は、繁栄を重視したクリントン政権、価値観を前面に出したブッシュ政権と違いはあっても、繁栄、安全および価値観が3本柱であることに変わりはなかった。しかし、2010NSSは世界秩序を国益の第4の柱に挙げる最初になった。

 底流に「米国一国では能力的に世界の問題に対処できず、その意思もない。翻って国際秩序は再構築されるべきで、米国は当面G20を重視する」との構図が透けて見える。