(英エコノミスト誌 2013年10月19日号)

超大国が別件で取り込んでいる隙に、中国が東南アジアで好機をつかむ。

APEC首脳会議開幕、米大統領欠席で注目集めるのは中国か

10月初旬にバリ島で開かれたAPEC首脳会議でも、オバマ大統領の不在と習近平国家主席(左端)の存在感が際立つことになった〔AFPBB News

 10月13日、中国の李克強首相が3日間の訪問予定でベトナムに到着した時、首都の道路沿いには何十万もの人が集まった。

 だが、群集は李首相のためにそこにいたわけではなかった。その日は、ベトナムの国民的英雄の殿堂で故ホー・チ・ミン氏に次いで崇められてきた伝説の将軍、ボー・グエン・ザップ氏の国葬だったのだ。

 実際、ベトナム国民の多くは、李首相の訪問のタイミングに不快感を抱き、ベトナム国民の悲嘆に割り込まないよう訪問を延期すべきだったと思った。「失礼」と「傲慢」という2つの形容詞がよく使われた。もう1つは「典型的」という言葉だ。

ハイレベルな中国外交の成果

 そんなことに動じず、李首相はベトナムのグエン・タン・ズン首相との会談を「ブレークスルー」として描くことができた。両首相の会談は、2週間に及ぶ東南アジアでのハイレベルな中国外交を締めくくるものだった。中国が近年、南シナ海で異論のある領有権主張を繰り返したことで綻んだ関係の修復を目的とした外交攻勢だ。

 中国国家主席で、共産党総書記の習近平氏は、インドネシア、マレーシアを訪問した後、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席した。李首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国10カ国の首脳とともに、ブルネイでの首脳会議に出席した後、タイに向かった。

 バラク・オバマ米大統領が、もともとAPEC、ASEAN双方の首脳会議に出席する予定だったが、ワシントンでの予算を巡る対立を理由に出席を取りやめたことで、中国の指導者らの歴訪はより際立つ結果となった。

 ベトナムはASEANの中で、中国に対する疑念が最も強い国だ。何世紀にもわたる敵意と、1979年の短い血みどろの戦争を経た後で領有権紛争がまだくすぶっており、両国の領有権問題は、中国が南シナ海で抱えるASEAN加盟4カ国(ベトナム以外はブルネイ、マレーシア、フィリピン)との領有権紛争の中で最も広範囲にわたっている。

 中国とベトナムはともに、南方でスプラトリー諸島(南沙諸島)の領有権を主張しているだけでなく、ベトナムは北方では、中国が1974年に旧南ベトナムの倒れかけた政権からパラセル諸島(西沙諸島)を奪取した時に、自分たちが違法に同諸島から立ち退かされたと考えている。漁業と石油・ガス探査を巡っても対立が頻繁に起きている。

 ところが今年6月、ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席の中国訪問中に、中越両国は新たな「戦略的パートナーシップ」協定に署名した。国境をまたぐ盛んな違法貿易を除いても、中国はベトナムにとって最大の貿易相手国であり、ASEAN全体にとってもそうだ。