MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 私は2013年の4月から宮城県仙台市にある仙台厚生病院の心臓血管センターで循環器内科医として勤めている。

 仙台厚生病院は地域の循環器、消化器、呼吸器分野の専門中核病院としての役割を担う病院であるが、働き始めて驚いたのが仙台厚生病院と開業医との連携が非常に円滑なことであった。

 医療連携を円滑に進めるための工夫や仕組みは多岐にわたるが、ここではユニークな地域連携クリティカルパスであるハート手帳を紹介したい。

 一般的に急性期病院を退院した患者さんは地域の開業医で継続して治療されるが、かかりつけ医ごとに治療方針が異なることがある。異なった治療方針で良い場合もあれば、統一された治療方針が望ましい場合もある。

 後者の例としては心筋梗塞に対する冠動脈ステント留置後の抗血小板剤の服薬期間がある。

 冠動脈ステント留置後の早期に抗血小板剤を中止することは心筋梗塞の再発(ステント血栓症)のリスクを増大させるため慎重な対応が必要である。

 抗血小板剤の服薬期間のようなケースでは急性期病院とかかりつけ医の間で治療方針の共有が重要であり、治療方針の統一と共有を目的として地域連携クリティカルパスが存在する。

 地域連携クリティカルパス(以下、連携パス)とはカテーテル治療などの急性期治療を行った専門病院と地域の開業医の間の「共同診療計画書」のことであり、都道府県や拠点病院が中心となり、地域ごとで作成される。

 地域ごとに連携パスの内容にはばらつきがあるものの、従来の連携パスには欠点があった。従来型の連携パスの多くはA3版程度の大きさの表形式の書類であり、表計算ソフトで作成した名簿や保険の契約書を連想させるような文字が細かくて視覚的に把握困難な代物であった。

 加えて「検査結果などの書き込み項目が多く手間がかかる」という欠点もあった。時間の限られた外来診療中に連携パスに記入することは困難であり、連携パスは書類として存在するだけで記載されないことも実際には多くあったとのことだ。

 記載されず利用されない連携パスはさらに利用されなくなるという悪循環に陥る。

 それらの欠点を解消すべく仙台厚生病院は「ハート手帳」という連携パスを作成した。手帳タイプで「患者が携帯する」という点が従来の連携パスとはまず大きく異なっている。