アベノミクスの3本の矢のひとつである成長戦略において重要な鍵となる「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉の妥結」、首相自らが「歴史的使命」と語る「憲法改正」、そして「消費税増税」……。今後、安倍政権が取り組むべき、これらの課題を実現させるにあたっては、当然批判や反発があるだろう。先の参院選で、衆参のねじれが解消されたとはいえ、現政権の行く手には様々な難関が立ちはだかっている。
政策の是非はともかく、ここではっきり言えるのは、「政権運営成功の鍵を握るのは、一国のリーダーである首相がいかにリーダーシップを発揮できるかにかかっている」ということだ。
そもそも、国家や地域という集団において、改革のために何か新しいことを始める際には決まって反対の声が挙がるもの。しかし、事を成し遂げるには、それを跳ね返すだけのリーダーシップ(=けん引力)が必要なのである。良きにしろ悪しきにしろ、国民に「痛み」を求めたにもかかわらず、圧倒的な支持の下で改革を進めたかつての小泉政権然り――。それは数々の歴史が証明するところである。

歴史上、最も偉大な大統領とは?

 さて、「現在、世界で最も影響力を有するリーダーは?」と問われて、「アメリカ大統領」と答える人は少なくないだろう。
そんなアメリカ大統領の歴代ランキングで常に上位に名を連ね、米国民の多くが「最も偉大な大統領」に挙げるのが、今から約150年前に活躍したリンカーンだ。
丸太小屋で生まれ、ホワイトハウスへ上り詰めたというアメリカンドリームを体現し、暗殺により生涯を閉じたことで、その存在が神格化されている偉人のひとりである。そんな彼を最も偉大な大統領たらしめている一番の要因――、それはアメリカ合衆国存続の危機を救ったリーダーだったからに他ならない。
この危機とは、南北戦争のことである。

   エイブラハム・リンカーン


1861年2月、奴隷制に反対する共和党のリンカーンが大統領に当選したことで、経済発展のためには奴隷制が欠かせないと考えていた南部7州(最終的には11州)がアメリカ合衆国連邦政府から離脱し、アメリカ連合国を結成。そして、リンカーンがアメリカ合衆国大統領に就任した直後の1861年4月、アメリカ合衆国連邦政府側(北軍)とアメリカ連合国側(南軍)に分かれて争い、最終的に62万人もの犠牲者を出した南北戦争が勃発。この内戦は長期化したものの、リンカーン大統領在任中の1865年4月に事実上終結する。
内戦下、大統領として数々の難しい選択や判断に迫られたことは想像に難くないが、そのような状況にあっても、国家を分裂させることなく、内戦を終わらせたリンカーンは、アメリカ史上最大とも言える国難から国を救った救世主なのである。そして、その過程で発揮した「戦略的な判断力」と「卓越したリーダーシップ」が高く評価されているのだ。
例えば、南北戦争中の「奴隷解放宣言」の発表。これは、もちろん人道的な意味で評価されるべき歴史的なトピックで、彼の偉業のひとつだが、非常に高度な外交戦略としての側面もあった。宣言により、南北戦争を奴隷解放のための人道的な戦争と位置づけることで、南部と結び付きの強い欧州諸国の動きを牽制したのである。
また、彼は戦時下に連邦政府の収入を確保するための「連邦課税法」、西部開拓民の支持を取り付けるための「ホームステッド法」を成立させ、共和党内部でも反対が多かった「徴兵制」を実施。
そうやって、断固たるリーダーシップの下で大統領の権限を強めたことが、内戦の勝利、ひいては国家分裂の回避に貢献したのである。