トロントで2日間にわたり開催されたG20サミットが、6月27日に閉幕した。サミット宣言を読んで、筆者がまず印象に残ったのは、世界経済の現状認識について、かなり厳しい表現を用いていた点である(和文は外務省仮訳による)。

「成長は戻りつつあるものの、回復は一様でなく脆弱であり(the recovery is uneven and fragile)、多くの国で失業は依然容認できない水準にあり、危機の社会的な影響はいまだ広く実感されている」

 今回のG20サミットの準備会合という位置付けで、6月5日に釜山で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議の声明では、世界経済の現状認識は、以下のような表現になっていた(和文は財務省仮訳による)。

「各国・地域間でペースに違いはあるものの(although at an uneven pace across countries and regions)、世界経済は予想されていたよりも速いペースで回復を続けている。しかしながら、最近の金融市場の変動により、我々は重大な課題が依然としてあることを再認識し、国際協力の重要性が強調されている」

 世界経済の回復が「一様ではない(uneven)」という認識は上記の宣言・声明2つで共通だが、ギリシャ財政危機・欧州信用不安問題を震源地とする金融市場の動揺が大きな後押し材料になって、トロント・サミットの宣言では「脆弱(fragile)」という言葉が使われるに至ったと考えられる。3週間ほどの間で危機感のレベルが一段高くなり、首脳レベルで共有されたことになる。

 しかし、「ではどうするか」という点になると、トロント・サミット宣言の内容は、実に心もとない。上記の厳しい状況認識に続いて、「回復を強化することが鍵である(Strengthening the recovery is the key.)」と書いてはいるものの、その後ろに続いているのは、悪く言えば意味不明瞭な、妥協の産物としか言いようがない文章の羅列である。財政緊縮強化を主張した欧州諸国に議長国カナダが加勢する一方、景気刺激の必要性を唱える米国が譲らず、このような書きぶりになったようである(下記引用も外務省仮訳による。(1)~(3)は筆者が便宜的につけた番号)。

(1) 「回復を持続するために、我々は、強固な民間の需要のための状況を創出することに取り組みつつ、既存の刺激策の実施を継続する必要がある」

(2) 「同時に、最近の出来事は、財政の持続可能性確保の重要性、並びに我々の各国が、財政の持続可能性を実現するために各国の状況に即して差別化された、信頼に足る、適切な段階を設けた、及び成長に配慮した計画を策定する必要性を強調している」

(3) 「深刻な財政課題を抱える国々は、健全化のペースを加速する必要がある。これは、世界的な成長が引き続き持続可能な道程を進むことを確保することを助けるために、世界的な需要をリバランスする努力と結合されるべきである」

 言うまでもなく、(1)は、米国の景気刺激継続の主張をそのまま取り入れた文章である。

 そして(2)は、ドイツを中心とした財政緊縮強化の主張を軸に据えつつも、「成長に配慮した」と付け加えることで、米国の主張も取り入れて、妥協点を見出した文章と受け止められる。また、各国個別の状況に応じた財政健全化ペースの違いを許容しているため、政策協調としては事実上、骨抜きになっている。