(英エコノミスト誌 2013年8月10日号)

花形エコノミストがインド中央銀行の指揮を任された。

 ラグラム・ラジャン氏は、金融危機を予言した数少ないエコノミストの1人と評されることが多い。同氏は2005年、世界の中央銀行総裁を前にしたスピーチで、イノベーションが金融の危険度を高めたと述べた。当時、ラジャン氏の主張は、今や米連邦準備理事会(FRB)次期議長の有力候補となっているラリー・サマーズ氏に「若干ラッダイト的」として片付けられた。

 ラジャン氏はインドについても正しかった。2010年、インドの驕りが一気に膨れ上がった時、ラジャン氏は「成長は決して当然視できない」「自己欺瞞は大惨事へ向かう第一歩だ」と警告した。ラジャン氏がインド準備銀行(中央銀行、RBI)総裁の任務をドゥブリ・スバラオ氏から9月に引き継ぐ準備に入った今、その警告には先見性があったように見える。

 インド経済は落ち込んでおり、国際収支危機の恐れに直面している。インドの通貨ルピーはこの3カ月間で、ドルに対して12%下落した。

 8月6日に発表されたラジャン氏の任命は、歓迎すべきことだ。同氏は国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務め、学界の中心的人物だったのみならず、この1年はインド財務省の経済顧問を務め、インドの改革を軌道に戻すための取り組みにかかわってきた(成果はまちまちだった)。ラジャン氏は、インドがまだまだ必要とする自由化の正当性を信じている。

誰からも羨まれない大変な任務

中央銀行、インフレ抑制策として短期金利を6.0%に引き上げ - インド

9月に新たな主を迎え入れるインド準備銀行(RBI)〔AFPBB News

 しかし、ラジャン氏が引き受けたのは、誰からも羨まれない仕事だ。

 RBIは最近、ルピーを安定させるため、銀行システムから流動性を吸収し、ひいては短期市場金利を引き上げる対策を講じた(RBIの政策金利は据え置かれた)。

 この対策は奏功しているようだが、企業や銀行での信用収縮を招き、国内総生産(GDP)成長率を現在の4~5%というペースを下回る水準に押し下げる恐れがある。

 インドの状況は一部の批評家が認めるよりも健全だ。GDP比で見ると、借り換えが必要な対外債務はさほど大きくない。それでも、RBIは差し当たり、通貨下落か経済抑圧か、どちらかを選ばねばならない。