日本企業は、ものづくりは得意でも、価値づくりが苦手だという点を議論してきた。価値づくりができない最大の要因は、いくら優れたイノベーションでも、競合企業が比較的早い段階に同等の商品を導入し、過当競争になってしまう点にある。

 結果的に、日本企業はイノベーションの初期段階では技術開発の先導役を果たしながらも、結局は価値づくりには結びつかない場合が多い。半導体、DVD関連、薄型テレビ、太陽電池など、すべて同じようなパターンを繰り返している。

 近年、模倣されるまでの時間はさらに短縮されつつある。新しい技術や商品分野の開拓者になることも重要だが、同時に、競合企業に摸倣されることなく、安定的な価値づくりを可能にするためのマネジメントが求められている。

模倣を防ぐ「特許」と「組織能力」

 ここでは、競合企業に模倣されず、持続的に企業の業績を支えてくれる技術とは何か、について考える。

 これに関連して、近年、知財・特許の重要性が強調されている。革新的な技術開発ができても、独自性・差別性を維持することが、年々より困難になっているので、特許への期待が大きくなっている。特許制度は法的に模倣から守ってくれる制度であり、極めて重要であることは間違いない。

 一方で、経営学では「模倣をされない」という視点から、もう1つ重要な学術発展のトレンドがある。それは、「コアコンピタンス」のような組織能力の議論が中心になってきたことである。

 個別商品における優位性や差別化は模倣されやすい。そのため、個別商品ではなく、組織能力の差別化に軸足を置いた経営を行うべきだということだ。

 個別商品の成否に一喜一憂するばかりでは、長期的に安定的な業績を残すことはできない。他の企業よりも、より優れた商品を安定的に開発・導入できる底力が必要なのだ。その骨太の底力が組織能力(コアコンピタンス)である。トヨタ自動車やキヤノンの高い業績は、特定のヒット商品ではなく、強い組織能力に支えられてきた。

 組織能力とは「企業が固有に持つ有形無形の資源と、それを活用する組織ルーチン」である。組織ルーチンとは、鍛えられたサッカーチームのように、複雑で困難なプロセスを組織として自然に実現する能力である。組織能力は、長年かけて企業内で蓄積された能力である。

 例えば、技術・商品開発の中で、様々な試行錯誤から学習した問題解決能力や経験知、長期間にわたり洗練され続けた組織プロセス、改良が積み重ねられた製造設備などである。

 組織能力での優位性は簡単に模倣できない。組織能力が模倣されないのは、それが長年時間をかけて積み重ねなければ蓄積できないからである。たとえ競合企業が組織能力の中身を完全に理解できたとしても、同じ能力を蓄積しようとすれば、何年間かが必要とされる。