AsiaX(アジアエックス) 2013年6月27日

 日本から都市国家シンガポールへ進出して、農業生産を行う。通常、このようなことを聞いたら、多くの人にとっては信じられないことに違いない。しかし、GINZA FARM PAN ASIA PTE. LTD.の代表取締役、飯村一樹さんの話を聞くと、それは決して絵空事ではないとわかる。

 「本年5月にシンガポール北西部、クランジで農地を借りました。10月から高糖度トマトを試験栽培し、品質に納得できたら、シンガポールで販売予定です。初年度の収穫は7トン程度、2年目以降は農地を拡大していく予定です。当社の特殊な培養技術により、甘酸っぱくて美味しいトマトをつくりたいと思います」。

 この高糖度トマトの生産・販売とともに、シンガポールで手がけるもう一つの事業が日本の生産者からの農産物宅配事業だ。

日本の朝採り野菜を翌日シンガポールに宅配

 「日本のこだわり生産者の野菜や果物、有機栽培の農産物などをシンガポールの家庭に宅配する予定です。その日に採れた野菜を、翌日の夕方にはシンガポールで召し上がっていただける直接流通を構築していきます。直売所から深夜空輸するので、収穫したばかりの旬の野菜などを手頃な価格でお届けできるのです。まずは瀬戸内海地域の桃とぶどうを中心とした農産物宅配ボックスを7月下旬から試験的にスタートします」

 昨年12月に設立されたGINZA FARM PANASIA PTE. LTD.は、銀座農園株式会社(本社・東京都中央区)のシンガポール現地関連会社。銀座農園は2009年に創業し、新しい農業技術を用いて都市と農業の共存をめざす都市農業を推進している。

 表参道の屋上貸し農園、有楽町でのマルシェやアンテナショップ、飲食店の経営、農業商社として海外への農産物輸出入なども手がけ、年商は4億円。

 「4年前、銀座の100平方メートルほどの駐車場を水田にしてアイガモ農法でコメづくりをしたところ、国内外からも注目されました。当社が進める都市農業は、広大な農地で大量の作物を収穫するという土地利用型農業ではありません。限られたスペースで付加価値の高いものを生むのが当社の都市農業です。都市とは商圏、市場であり消費者に近く、ニーズを的確に捉えるのが、当社の強みです」

 この都市農業にシンガポール政府も関心を示し、昨年秋、政府関係者が東京へ視察に訪れた。

 「シンガポールは都市農業にふさわしく、市場としても消費者の食べ物に対する意識が高い。また、これは私がシンガポールで実現したい夢ですが、貯水池に広大な浮揚式のフローティング・グリーンハウスをつくり農作物を生産したい。当社の栽培技術は土壌栽培や水耕栽培よりも荷重が軽く、この方法に適しているのです。先日、シンガポール政府に提案したところです」

 「農業を通じて日本を元気にする」という企業理念を掲げ、飯村さんは農業生産のみならず、日本の農業技術をアジア全域に売り込みたいと考えている。

 「農業研究所、種苗メーカー、ビニールハウスなどの資材メーカーなどとタッグを組んで、アジア仕様を作り、日本の農業技術を海外に販売していきたい。特にアジアには日本の農業技術にとって大きなビジネスチャンスがあると思うのです」