(英エコノミスト誌 2013年7月20日号)

中国ではまれな抗議行動をきっかけに、地方政府がウラン処理施設の建設計画を白紙に戻した。中国でも反原発の気運が高まるのだろうか?

 「原子力による汚染を許さない」「緑の故郷を返せ」。7月12日、中国南部の広東省江門で数百人規模の抗議行動が起き、このような横断幕が掲げられた。驚いたことに地方政府は譲歩し、デモ隊の要求を受け入れてウラン処理施設の建設計画を白紙に戻すと発表した。

 原子力開発の推進と抗議活動の抑え込みに躍起な北京の中央政府にとって、今回のデモは潜在的なトラブルを予感させる、不安をかき立てる出来事だった。

 1980年代半ばに中国で原子力発電所の建設が始まって以来、原子力産業関連のプロジェクトに対する大規模な抗議行動が起きたのは、知られている限り今回が初めてだ。7月14日、住民は再び街に繰り出し、江門市政府の庁舎を取り囲んだ。60億ドルに相当する規模のこのプロジェクトが、ひとまず延期されただけではないかと憂慮したためだ。

 市の共産党トップ、劉海氏が市民の前に現れ、計画は完全に白紙撤回されたと再度明言した。これほど大規模なプロジェクトで、当局が一般市民の懸念をここまで素早く聞き入れるのは珍しい。原子力関連のプロジェクトでは前代未聞だ。

 江門市の政府当局は恐らく、抗議行動がエスカレートし、2007年の廈門や2011年の大連で起きた大規模な化学工場プロジェクトへの反対運動と同等の規模に達することを恐れたのだろう。どちらの抗議行動も数千人規模に達し、譲歩を引き出すことに成功している。

 また、江門の騒動は近隣の香港の世論に煽られる恐れもあった。香港は中国本土と異なり、原子力反対運動の長い歴史がある。

福島第一原発の事故で国民のムードが一変

中国、原発の安全点検を命令

福島の原発事故後、中国政府は原発建設を一時停止した(写真は中国・安徽省の学校で放射能の危険性に関する講習を受ける児童)〔AFPBB News

 2011年3月に福島第一原子力発電所の事故が起きるまで、中国では、原子力産業を急速に拡大するという政府の壮大な計画に楯突く者はほぼ皆無だった。

 環境保護運動は拡大していたが、こうした運動は廈門、大連のような化学工場プロジェクトや産業廃棄物の不法投棄への抗議が中心だった。この時点で13基の原子炉が稼働しており、政府は2020年までにこれを100基に増やすという目標を掲げていた。

 福島第一原発の事故を機に国民のムードが変わった。ソーシャルメディア、特にツイッターに似たサービスである微博(ウェイボ)も、原子力への不信感拡大に一役買った。こうした動きに加え、原子力産業の安全性に対する世界的な見直しの機運を受けて、中国政府は原発建設の一時停止を命じた。