5月下旬以降、アベノミクスの真価に対する疑念がジワリと頭をもたげ始めている。アベノミクスの3本の矢について、エコノミストの間では当初から第1の矢の財政政策、第2の矢の金融政策は前座であって、本丸は第3の矢=成長戦略の中味であると見られていた。

 第3の矢に対する期待と不安が入り混じる中、6月5日に安倍晋三総理が成長戦略第3弾を発表した。しかし、その中に、重要施策として期待されていた法人税減税、社会保障関係費削減のいずれもが盛り込まれなかったことから、市場関係者は失望し、株価が大幅に下落した。幸いその後、米国の金融緩和が継続される見通しが強まり、為替が円安方向に振れて株価も戻している。

 この一連の為替と株の変動によりアベノミクスの危うさは明らかになった。米国の金融緩和見通しなどちょっとした外部要因によって容易に土台が崩れてしまうのである。経済界が「さあ行くぞ!」と活気づくような具体策を含む成長戦略が打ち出され、それを土台に企業活動が活性化し始めない限り、この危うさを解消することはできない。

成長戦略に欠かせない強力なエンジンは輸出の増大

アベノミクスは「唯一の道」、首相がAFP独占インタビューで語る

アベノミクスについて、日本経済の再生には「この道しかない」とAFPとの独占インタビューで語る安倍晋三首相(2013年6月6日撮影)〔AFPBB News

 成長戦略の具体策として、法人税減税、社会保障関係費の削減は外せない。これらを外せば再び株が売られるのは6月に経験済みである。しかし、それだけでは不十分だ。それらに加えて景気押し上げの推進力となる強力なエンジンが必要である。

 イノベーションの推進、医療改革、女性労働力の活用など、すでに成長戦略として様々なメニューが取り上げられているが、どれもパンチ力、即効性に欠ける。

 即効性があり強力なエンジンとなるのは、輸出の増大である。日本の最大の輸出相手国は中国だ。この中国向け輸出が昨夏来大幅な減少を続けている。これは中国の景気減速の影響だと言われているが、実は中国経済の状態はそれほど悪くない。

 本年第2四半期のGDP実質成長率は7.5%と第1四半期の7.7%に比べて若干低下したが、生産・投資動向を見ても安定しており、消費も堅調だ。ブラジルやロシアの成長率が3%前後まで低下しているのに対して、中国は依然7%台の成長率を維持している。