(英エコノミスト誌 2013年7月6日号)

研究者たちは、臓器の再生という古くからの夢をまだ実現していないが、徐々に実現に近づいている。

 ゼウスによって岩に縛り付けられた巨神プロメテウスは、毎日ハゲタカに肝臓をついばまれるという責め苦に耐えながら、結局、毎晩臓器が再生された。この光景に比べると、7月初めにネイチャー誌のウェブサイトに掲載された動画は、全く面白味のないものに見える。動画はピンク色の点の一群が濃い色の中央の塊に凝縮されていく様子を映し出している。

 だが実際には、とてつもなく大きなことが起きている。ピンク色の点は幹細胞で、この動画は、いずれ肝臓のように見え、肝臓のような機能を果たし得る肝芽の成長過程を示している。動画を制作した横浜市立大学の武部貴則氏と谷口英樹氏は、機能的なヒト肝臓組織を作り出したのだ。

 研究者たちは長年、幹細胞を使い、損傷した組織を修復したり、置き換えたりすることができるのではないかと夢見てきた。再生医療と呼ばれる野心的な目標だ。特に、胚性幹細胞(ES細胞)は「多能性」を備えている。つまり、どんな種類の細胞にもなれるということだ。

 そして今は、胚由来ではない細胞に多能性を持たせることが可能になっており、このため細胞の取得に付きまとっていた倫理的な地雷原を回避することができる。

 京都大学の山中伸弥教授は昨年、誘導多能性の発明でノーベル賞を受賞した。山中教授は、4種類のたんぱく質を使って成熟した細胞を多能性を持つ状態に初期化できる方法を示した。山中教授の人工多能性幹(iPS)細胞は、胎芽細胞の倫理的問題をクリアするほか、少なくとも理論的には、治療法を患者自身の体から作ることを可能にする。

 iPS細胞は、患者自身の遺伝子構造を持ち、それゆえ患者の免疫システムの注意を引くこともない。このような治療法を実現することは、とてつもなく難しかった。だが、ネイチャーに掲載された武部博士の論文は、プロメテウスの夢がゆっくりと現実になりつつあることを示すいくつかの兆候の1つだ。

日本勢がリードするiPS技術

 多能性細胞の臨床試験は、もとをたどれば胚由来の細胞だけが利用可能だった時代にさかのぼるとはいえ、既に行われている。

 アドバンスド・セル・テクノロジー(ACT)という米国企業は、多能性細胞を使って失明の原因となる黄斑変性を治療している。ACTは昨年、2人の患者で有望な結果を報告しており、同社のギャリー・レイビン会長は、試験は続いていると話している。