今年のアカデミー賞で外国語映画賞候補となったノルウェー映画『コン・ティキ』(2012)が現在劇場公開されている。

 「コン・ティキ」とは、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールが、1947年、ペルーからポリネシアへと太平洋を8000キロにわたり「漂流」し続けた際使われた筏の名前である。とは言っても、それは単なる思いつきから始めた無謀な冒険ではない。

世界中で5000万部売れた驚異のベストセラー

コン・ティキ

 「ポリネシア人の起源はアジアではなく南米にある」との自説を証明するため、欧州人に乗っ取られる前の南米の素材と技術だけを使った筏で、体を張って挑んだ学術的探検だったのである。

 探検の翌年、「コン・ティキ号探検記」が出版された。そして、内容はもとより、そのウィットに富んだ語り口から、世界中で翻訳され、5000万部という驚異のベストセラーとなった。多くの若者たち同様、私も長く読まれ続けたその書の読者の1人となった。

 のちに多くの冒険家、探検家たちに影響を与えることになる探検を綴ったこの書を胸躍らせ読んだものである。

 『コン・ティキ』はヘイエルダールの母国ノルウェーでは、2012年最高の興収を上げた。若き日の冒険心が呼び覚まされた私は、日本公開初日の土曜日、映画館へと出かけた。しかし観客席はガラガラ。もはや若者はヘイエルダールの書を読むこともなく、その名すら知らないのかもしれない。

 1950年には、探検中、撮影されたフィルムをもとに、ドキュメンタリー映画『コン・ティキ』が製作された。そして、翌51年にはアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞するのだが、残念ながら日本では劇場未公開に終わってしまい、長年見ることができなかった。

 近年DVD化され(日本では未発売だが)、私もようやく見るチャンスに恵まれた。今回の映画化作を見ていると、ドラマ部分は別として、おおまかな描写はドキュメンタリーに忠実と言えそうだ。

 この映画の企画が始まった1996年当初、生前のヘイエルダール(2002年他界)自身が、物語の構築に関与していたのである。

 結局、ポリネシアのトゥアモトゥ諸島に到達したコン・ティキ号は、ラロイア環礁で座礁、その切り立った珊瑚により破損してしまい、フレンチ・ポリネシアの中心タヒチから700キロあまり離れたこの地で101日間の航海を終えた。