去る6月19日、北京で北朝鮮の金桂冠第1外務次官と中国外交部の張業遂副部長との間で中朝戦略対話が開催された。

 中朝両国の間での戦略対話は3年連続の開催となるが、2011年、2012年は中国共産党と朝鮮労働党の党レベルの対話であった。今回、外交当局者間という政府レベルの対話となったことに大きな変化がある。

 それは、中国が、外交部が主導する「6者協議」再開に向け、北朝鮮と本格的な交渉に入ったことを意味するからである。

北朝鮮を説得して「6者協議」を再開したい中国

 北朝鮮は、2012年末の人工衛星打ち上げを名目とした長距離ロケットの発射実験に踏み切り、2013年2月には3回目の地下核実験を実施するとともに、3月から4月にかけ、米韓合同軍事演習に反発する形で中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験を準備するなど北東アジアの緊張を高める一連の挑発行動を取ってきた。

 これに対し、米国のケリー国務長官が4月に訪中した際、中国側に対北朝鮮制裁強化を要求した。中国はこれに答える形で、5月に入り北朝鮮の外貨取引銀行である朝鮮貿易銀行に口座閉鎖を通告した。北朝鮮の金融資産を凍結したのである。この中国の金融制裁は、北朝鮮の核実験実施に対して3月7日に国連安保理で全会一致によって採択された「国連安保理決議2094」で規定されたものを、2カ月遅れで実行に移したものであった。

 中国の制裁強化に動揺した北朝鮮は、5月22日から24日にかけて、金正恩・朝鮮労働党第一書記の特使として崔竜海・朝鮮人民軍総政治局長を訪中させ、24日には習近平主席と会談、金正恩・党第一書記の親書を手渡した。ここで北朝鮮は、挑発から一転して対話の姿勢へと転換する姿勢を見せた。北朝鮮の核問題を協議する場として2003年にスタートし、2008年を最後に休眠状態にある「6者協議」の再開に前向きな対応を示したのである。中朝戦略対話での「6者協議を含むあらゆる形式の会談に出席する」という金桂冠第1外務次官の発言は、こうした背景から出てきた。

 しかし、「6者協議」再開のカギは、北朝鮮の「非核化」受け入れいかんである。いまさら北朝鮮が「核放棄」に同意する可能性は、限りなくゼロに近い。そうだとすれば、「6者協議」再開は相当に困難な外交案件ということになる。議長国である中国にしてみれば、なんとか北朝鮮を説得して、「核放棄」も議題に含め、協議再開につなげたいところだろう。中朝の戦略対話は、まさにこうした状況下で行われたものと言える。

北朝鮮は米朝2国間協議を開きたいが・・・

 ただし、北朝鮮は中国に「6者協議」で前向きな姿勢を見せつつ、米国にも直接交渉を呼びかけた。習近平主席への誕生日祝電を送った翌日の6月16日、北朝鮮の国防委員会は「重大談話」と銘打ち、報道官談話を発表した。