米国の首都ワシントンでの外交や安保の論議で中国の軍事力増強が切迫したテーマとなっていることは再三、報告してきた。前回のこのコラムでも米国防総省の中国の軍事力についての報告内容を伝えた。

 しかし今回は、中国の軍事力の大幅な増強が日米同盟にどのような影響を与えるかを、総合的、かつ具体的に研究した民間研究機関の調査結果を報告しよう。この報告は特に日米同盟や日本の安全保障について大胆に踏みこんだ予測を打ち出している。

 結論を先に述べるならば、この研究報告は日本と米国がかなり画期的な新戦略を取らない限り、日米同盟は中国の軍拡に対して骨抜きになってしまうという警鐘を込めた予測を強調していた。

 研究報告は、この5月上旬に公表された。民間の民主党寄りの大手シンクタンク「カーネギー国際平和財団」がここ数年をかけて作成したもので、「2030年の中国の軍事力と米日同盟=戦略相対評価」と題されていた。本文だけでも300ページ以上の詳細かつ長大な報告だった。

 報告の作成者はダグラス・パール元国家安全保障会議アジア上級部長、ポール・ジアラ元国防総省日本部長ら合計9人の専門家たちである。みな歴代政権のアジア担当、あるいは民間機関での中国研究などの経歴を持つ人たちで、超党派と言える。

 その研究の主眼はタイトルの通り、2030年の時点で中国の軍事力はどうなり、その結果、日米同盟や日本の安全保障、米国の安全保障はどうなるか、という予測である。

 報告のタイトルにある「相対評価(ネットアセスメント)」とは、米国が自国の軍事力と将来、衝突の可能性のある相手諸国の軍事力の中期、長期の戦力予測を詳しく研究し、実際に衝突があった場合にどのような帰趨となるかを調べる作業である。米国独自の国防政策の枢要な一環であり、国防総省の中には国防長官直属の相対評価局という組織があり、アンディ・マーシャルという伝説的な専門研究者がその局長を長年務めている。今回のカーネギー国際平和財団の報告もその相対評価の基本に沿ったわけである。

中国の軍拡に対処しないと東アジア全体が危機に

 さて、前置きがやや長くなったが、報告の内容をもう少し詳しく紹介しよう。日本の将来にとって極めて重要な指摘や仮説が多々含まれている。