1 はじめに

 ならず者国家、悪の枢軸と名指しされてきた北朝鮮は、金正恩体制になってさらに過激かつ予測不可能になってきている。一方、北朝鮮に対する関係国、特に中国の動きには変化の予兆らしきものがある。この機を捉えた対北朝鮮戦略を構想して、その実現に日本は邁進すべきだろう。

 今までとは違う新たなうねりを推定し、新局面に対するグランド・デザインを提示してみたい。

2 北朝鮮問題の新たなうねり

(1)1990年代以降の北朝鮮問題の概観

 1990年代前半には、北朝鮮の核開発を中止させるため、米国が北朝鮮の核関連施設を攻撃する寸前まで緊張が高まった。核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言(93年3月)し、休戦協定の無効を宣言(94年4月)し、寧辺の黒鉛減速炉の燃料棒取り出し(94年5月)と矢継ぎ早に挑発政策を強行。

 これに対し米国は、軍事的オプションを採ることなく、ジミー・カーター大統領が訪朝し、10月には「北朝鮮の核開発政策凍結と関係改善」で合意するという大きな譲歩をした。

 金日成の後を継いだ金正日は、1998年8月にはテポドンを発射するなど、父親譲りの瀬戸際戦略を踏襲した。2006年には、スカッド、ノドンおよびテポドンの3種のミサイルの同時発射(7月)を行い、10月には初めての地下核実験を強行した。

 これでも米国との直接交渉が不可能と知るや、さらに瀬戸際政策を推し進め、2009年5月には2回目の地下核実験を断行した。これらの一連の強硬策に対し、太陽政策で応じる国もあり、また国際社会は人道援助と称して国民に行き渡ることのない無用の援助をも行った。

 中国やロシアの思惑に譲歩させられ、さして効果的ではない制裁決議を3度(2006/7、2006/10および2009/12)も採択した。やっぱりと言うべきだが、中国による決議の誠実履行意識の欠如・希薄さもあり、さしたる効果を発揮したとは思えない。

(2)2013年4月危機

 国際社会の度重なる制止要求にもかかわらず、本(2013)年2月12日、3回目の核実験を強行した北朝鮮に対して、国連安保理は、同国に対する金融取引の制限強化や国連決議に違反する貨物輸送の取り締まりなどを盛り込んだ制裁決議案(2094号)を、3月8日全会一致で可決した。

 米韓両軍は、3月1日から4月30日まで、合同の野外機能訓練「フォールイーグル」を実施中であり、これに反発する北朝鮮は、演習が始まって以降、北朝鮮は「韓国と戦争状態に突入」と表明するなど、米韓に対する威嚇を強めている。

 「ソウルのみならずワシントンまで火の海にする。」「朝鮮戦争の休戦協定を白紙にする。」あるいは「予告なしの報復行動を行う」とも述べ、最後通牒にも等しい過激な言動を繰り返している。

(防衛白書19pから転載)

 また、射程4000キロと見積もられるムスダンミサイルやスカッド、ノドンなどのミサイルを展開させ、金正恩第一書記の命令があれば直ちに発射できる体制を維持していると述べた。

 ちなみに、北朝鮮の弾道ミサイルの射程は下図の通りであり、未だ弾道ミサイルの弾頭に装着できる小型化に成功していないとはいえ、近年の開発状況から考えるとそれも早晩可能となろう。日本のみならず、米国も北朝鮮の核の脅威に晒されることになる。

 発射時期に関する多くの専門家の予想は裏切られ、関係国は翻弄されている。日米韓はイージス艦を展開し、米軍は、B52戦略爆撃機、ステルス爆撃機B2、F22を韓半島に投入し、海上配備型のXバンドレーダー(SBX)を近海に移動させるなどの対応行動をとっている。日本も弾道ミサイルなどに対する破壊措置命令を発出(4月7日)して警戒を強化している。

 本稿執筆時点(4月18日)では未だ発射しておらず、世界を翻弄しつづけていると言える状態だ。北朝鮮の行動は予測不可能であると言われるが、まさにその通りである。

 この状態は、米韓合同軍事演習が終了する今月(4月)末まで継続するのではないかと見積もられる。一触即発の危機的状況にあると表する識者もいる。

(3)4月危機をどう見るか

 北朝鮮に対する本年3月上旬の安保理決議の採択は、中国を含む全会一致で採択されたこと、中国の雑誌編集者が「中国は北朝鮮を見捨てるべきだ」との論説を発表したこと(最も副編集長は左遷させられたようだが・・・)など、今回の危機に対する中国の対応は、今までの対応とは明らかに異っているようだ。

 北朝鮮の庇護者・後見役をもって任じてきた中国に変化が起き始めたのではないかとも思える。

 また、米国も北朝鮮の威嚇や脅迫には決して屈しないとの意思をさらに明確にし、暴挙を抑止するために今まで以上の警戒・抑止の体制を構築する等かなり強い態度を見せている。韓国は腰が定まっていない感があるものの、今までのような宥和的な対応にはならないだろうと思われる。日本も腹を据えた対応を行っている。

 日・米・韓および中国の新指導部は、北朝鮮の暴挙を許さないということでは一致しているはずだ。

 このような状況下で、北朝鮮が、冷静に状況を判断すれば、ミサイル発射を断行し、あるいは、哨戒艦天安沈没事件(2010/3/26)や延坪島砲撃事件(2010/11/23)のような軍事的行動を行えば、米韓の圧倒的な報復攻撃に晒され、状況によっては北朝鮮体制の崩壊につながりかねないと分かっているはずだが、そのような常識は通用しないのだろうか?