中小企業が一番困っているのは人材問題だろう。

 社長が、「能力のある従業員ならいくら給料を出してもいいんだが!」と思っても、帯に短かしたすきに長し。なかなか最適な人材に出会わない。

 私のところにも、「中小企業にも優秀な人材が適正に配置されるシステムを、政府は構築すべきだ」といったことを言ってこられる方がいらっしゃるのだが、社会主義の国ならともかく、自由主義の日本で人材割当制を実現できるはずもない。

 リーマン・ショック後の激烈な不況は日本企業にとって大きな不幸ではあったが、私の知り合いの社長は「悪いことばかりでもありませんでしたよ」と言う。

 「不況対策予算をいろいろとつけてもらったせいでしょうか、私の仲間でも案外倒産は少なかったと思います。亀井(静香)さんの返済猶予措置も、実際に使った人は私の周りにはいませんが、『最後の最後にはこれがある』という安心感がありました。

 また、当社の場合は雇用調整金をフルに使わせてもらい、日頃やらなければならないと思いつつ忙しさにかまけてできなかった社内研修をみっちりやりました。

 一連の研修で従業員の意識が向上し、技術的な知識レベルが飛躍的に上がりました。そして私が何よりびっくりしたのは、後輩に技術伝承の授業を行ったベテラン社員たちが、自分たちの知識が不足していることを痛感して、猛烈に勉強を始めたことです。

 人に教えてみて初めて自分たちの知識があやふやだということが分かり、今まで見向きもしなかった理論書を読み始めたんです。生徒の知識も向上しましたが、先生(ベテラン職人)の知識レベルがメチャメチャ上がりました」

 社長はこう言って喜んでおられた。

 また、社長は「人材獲得の絶好のチャンスだった」とも言う。好況の時には決して中小企業に来てくれなかったような人材が来てくれる。しかも、「就職できただけでもありがたい。何でも取り組もう」という意欲を持って来てくれると言っておられた。

「いやだな」と思う仕事も面白くなっていくもの

 日本ではずいぶん長いこと「就職はできて当たり前」という時代が続いた。しかも、今は「ゆとり教育世代」の時代。すっかり甘やかされておだてられ、「勉強は自分の得意なモノだけやればいいですよ。あなたの好きな特性に合った仕事を見つけなさい」「あなたには何かやりたいことがあるでしょう。あなたの夢を探して、それを実現しなさい」と言われて育った世代だ。