特別な原料を使ったり、製造方法を変えたりしているわけではない。中味は、みなさんがよく飲んでいるアサヒビールの「アサヒスーパードライ」である。

 そのスーパードライに、アサヒビールがちょっとした魔法をかけた。よりおいしく飲めるように、新たな商品価値を開発して、付け加えたのだ。

 何が起きたかというと、そのビールを客に提供するようになった料飲店は、軒並みビールの売り上げが増えた。前年比で樽生ビールの売り上げが105%以上になった店が97%以上に達するという。中には、売上が2倍になったという店もある。

アサヒビールの「アサヒスーパードライ エクストラコールド」

 アサヒビールはスーパードライにどんな付加価値を加えたのか。それは、「氷点下の状態で提供する」ということだ。

 スーパードライは摂氏マイナス3~4度で凍ってしまう。そこで、凍る手前のぎりぎりの温度であるマイナス2度まで冷やして提供する。アサヒビールはそのための専用のビールサーバー機材を開発した。

 メーカーが商品自体を改良して売り上げを伸ばしたという話はよく聞く。だがエクストラコールドは違う。何よりも画期的なのは、中身は変えずに、新しい“提供方法”を開発したという点だ。

 2月22日、大阪梅田のアサヒ ラボ・ガーデンで、エクストラコールドの開発ストーリーを紹介するイベントが行われた。会場で、アサヒビール研究生産本部 容器包装研究所 機器開発部 副課長の佐藤善典氏に、エクストラコールドの開発の経緯と、どんな工夫とこだわりが込められているのかを聞いた。

電気の力でビールを氷点下に

──なぜスーパードライを氷点下で提供することになったのですか。

佐藤善典氏(以下、敬称略) 1990年代前半にイギリスのギネス社が、ビール市場を活性化させるために「ギネス」のエクストラコールドを出したことがあります。通常より2~3度低い温度で飲むギネスです。これが好評になりまして、他のメーカーが追随したんです。オランダのハイネケンもエクストラコールドを展開したことがあります。

──そのブームが日本にやって来たということですか。

佐藤 ただし、日本では少しタイムラグがあります。すぐに追随することはありませんでした。日本では94年から発泡酒が登場し、さらに2003年から新ジャンル(編集部注:いわゆる“第3のビール”と呼ばれているカテゴリー)が発売されるなど、ビール類市場において、各社さまざまな提案を続けてきました。しかしアルコール飲酒人口の減少などにより、ビール類市場は微減傾向が続いています。そこで、お客様にもっとビール類を選択してもらえるような提案が必要になってきました。