今年のアカデミー賞授賞式には、最後の最後、サプライズが用意されていた。ホワイトハウスからの中継映像で、ミシェル・オバマ大統領夫人が作品賞受賞作の名を読み上げたのである。

 そして発表された作品名は、何と、イラン米国大使館人質事件でのCIA(中央情報局)の活躍を描いた『アルゴ』(2012)だった。

生の歌にこだわったレ・ミゼラブル

「ドレミの歌」「すべての山にのぼれ」など誰もが知る曲満載の傑作ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」

 そこに至るまでの授賞式は、それ自体、ミュージカルコメディショーと言えるようなものだった(「作品」の出来には賛否両論あるが)・・・。

 日本でも大人気のミュージカルの映画化『レ・ミゼラブル』(2012)が8部門にノミネートされたこともあって、ミュージカルが1つのテーマだったのである。

 今回初めて司会を務めたセス・マクファーレンがきわどいジョークを連発しながら歌とダンスをからめ進行していくショーは、『レ・ミゼラブル』など3本のミュージカル映画からのナンバーをオリジナルメンバーが「生」で歌うステージで1つのピークを迎えた。

 ここで、何で「生」にこだわったのかと言うと、事前に別録りした歌に合わせ「クチパク(Lip sync)」演技をするミュージカル映画の常識を破るように、『レ・ミゼラブル』では撮影現場で全員が実際に歌ったことが高く評価されていたからである。

「雨に唄えば」はミュージカル史上最高作に挙げる者も少なくない

 ただし、早速、キャサリン・ゼタ・ジョーンズが妖艶に歌った「All That Jazz」(映画「シカゴ」から)がクチパクだったのではという疑惑が湧き上がっている。

 『レ・ミゼラブル』で悲劇の女性フォンテーヌを演じたアン・ハサウェイは助演女優賞を獲得し、プレゼンターとして登場した名優クリストファー・プラマーからオスカー像を手渡された。

 プラマーと言えば『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)のトラップ大佐役で知られ、イコール「エーデルワイス」を歌う姿、という方も少なくないと思うが、実は、その歌声はプラマーのものではない。

 ビル・リーという「プレーバックシンガー(Playback singer)」による吹き替えなのである。