経営力がまぶしい日本の市町村50選(7)

 日本で最も雪深い町、新潟県津南町。真冬になれば民家の1階はほとんど雪に埋まってしまう。その冬の最も寒い時期にこの町を訪れた。越後湯沢から北越急行線、JR飯山線と乗り換えて津南に着いたのは、東京駅を発ってから3時間後。

 すでに一面雪景色の越後湯沢から各駅停車に乗ってさらに雪深い町に向かう旅は、何だか昭和を思い出すような気分だった。新幹線の開通で近くなったはずの新潟も遠くて寒い。

日本一の豪雪地帯なのに土地は温かい

雪が降りしきる津南町役場

 しかし、土地は温かいようだ。駅に着いて近くの食堂でお昼を食べたら、1人で切り回し手のあかないお母さんに代わって、お客さんの1人が席を作ってくれたりお茶の替えを入れてくれたり・・・。

 600円の親子丼はまさにてんこ盛り、大きな味噌汁には野菜たっぷり、4人から5人分はあろうかというほどのお新香の盛り合わせもついてきた。お勘定を済ますと、東京から来たんだったらこれ持っていきなさいと、名産のなめこがたっぷり入った袋を2つもいただいた。

 日本の地方を歩いているといろいろな場面に出くわすが、こうした親切やぬくもりに接すると本当にうれしい。そして思う。よそ者に対して温かく親切に振る舞えるのは、文化ではないかと。またこうも思う。豊かさの表れではないかと。

 その考えは上村憲司町長の話を聞いていて確信に変わった。

 「日本で最も雪深いところなのですが、この土地からは縄文土器がたくさん出土しています。縄文時代はここが日本の“銀座”ではなかったかと思うほどなんです」

 そして江戸時代末期からは、幕末に河井継之助を生んだ長岡藩の影響を強く受け、教育と産業育成に力を入れてきたという。温かさと優しさは確かに歴史に裏打ちされていたのだ。

 津南町の経営については昨日の大和田一鉱先生の「最悪のシナリオを住民と共有~新潟県・津南町」によくまとめられているが、平成の大合併を避けて独立独歩の道を選択し、独自の産業を育てていこうという精神の背景には歴史がある。

 上村町長はまだ1期3年目。就任からしばらくは東日本大震災からの復興に追われた。だが、それが一段落すると新しい産業を次々と起こしている。

 冬に一面深い雪に覆われることはマイナスだが、そのハンディキャップを逆手に取って、おいしい野菜を作り、また大手コンビニチェーンと組んでおいしい水を全国に売り始めるという。政治家にありがちな上から目線はなく、話は人を惹きつけて離さない。 

 もし経済界にいたらアイデアと営業力の豊かな社長として成功していたに違いない。それでは次ページから上村町長のインタビュー記事をどうぞ。