寒い体育館に、バッハの「G線上のアリア」が流れる。教え子たちが次々と卒業証書を受け取っては、それぞれの進路を自分の口からみんなに告げる。

 答辞を読む卒業生代表が、学生生活の思い出として、ブラインドダンスでの経験を誇らしげに語る。私の目からは、次から次へと涙がとめどなく流れる。この曲が流れ続ける限り、ずっと永遠に。

希少がんと闘う私と「ブラインドダンス」との出合い

 私が都立八王子盲学校でブラインドダンスを指導するようになってから、かれこれ7年になります。今年の3月には、教え子たちを見送るのは7度目になります。

 そして私が、世界中で「忘れられたがん」と呼ばれる希少がん「肉腫(サルコーマ)」だとがん告知を受けてから、まもなく8年が経とうとしています。私の11度に及ぶ手術を含む闘病人生は、常にブラインドダンスと共にあったと言っても過言ではありません。

希少がんと闘いながらブラインドダンス競技会を立ち上げた挑戦の日々を綴った著書『いのちのダンス~舞姫の選択~』(吉野ゆりえ著、河出書房新社、1300円・税別)

 「ブラインドダンス」――この言葉を知っている方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか? ダンスとあるので、何かダンスの一種類であることは想像がつくことと思います。

 ブラインドダンスとは、ブラインド(視覚障がい者)の方のためのダンスのことです。具体的には、視覚障がい者が踊る社交ダンスや競技ダンス(社交ダンスの競技)のことを指します。

 こうお話しすると、必ずと言っていいほど「目が見えないのにダンスを踊ることができるのですか?」という質問を受けます。答えは、「イエス」です。

 まず、視覚障がい者というのは「目が見えない」方だけではないのです。もちろん全く見えない「全盲」の方もいらっしゃれば、少し見える「弱視」の方もいらっしゃいます。かつ、生まれつき障がいのある「先天盲」の方もいらっしゃれば、病気や事故によって障がいを持つに至った「後天盲」の方もいらっしゃいます。

 また、社交ダンスや競技ダンスは1人ではなく2人が一対となって踊るので、パートナーが視覚障がい者の目となって安全に踊ることができるのです。そして、実はこのブラインドダンスは日本発祥のものなのです。