日本海の荒波が打ちつける岸壁に、いまにもつぶれそうなおんぼろ水族館が建っていた。ある日、水槽の中に小さな神様が現れた。神様は「お前たちを助けてあげよう」とひそやかにささやき、水族館を甦らせてくれた──。

 2013年1月3日、山形県の鶴岡市立加茂水族館で、あるセレモニーが行われた。同館の2012年度(2012年4月~2013年3月)の入館者が25万人を突破したのだ。25万人目の入館者となった家族は拍手で迎えられ、花束と記念品を贈呈された。

 同館では、2012年度の最終的な入館者数は27万人に達すると見ている。前年度の約22万2000人という記録を大幅に更新する数字である。

 2012年4月に、同館は「クラゲ展示種数世界一」としてギネスワールドレコーズに認定された。三十数種類のクラゲを展示する水族館は世界でここだけである。ギネス認定というニュースがマスコミに大々的に報じられ、入館者の増加に拍車をかけた。

山形県の加茂海岸に建つ鶴岡市立加茂水族館

いきなり売り飛ばされ借金を背負わされた

 同館は、あと一歩で閉館という崖っぷちの状況から復活を遂げた水族館として知られている。一時期は入館者が激減して存亡の危機に瀕しながら、クラゲの展示に特化することで息を吹き返し、いまや全国から客が押し寄せる人気水族館となった。

 その復活の軌跡は、北海道の旭山動物園に勝るとも劣らないほど劇的である。ご存じの通り、旭山動物園は閉園目前まで追い詰められた状態から這い上がり、入場者数日本一を達成した動物園だ。

 加茂水族館の歴史を振り返ると、波乱万丈と言うしかない。現在の場所に市立水族館としてオープンしたのは1964年。当初は近代的な水族館として話題を呼び、年間に20万人の客が訪れていた。だが、オープンから3年目の67年にいきなり売却されてしまう。

 売却先は株式会社庄内観光公社という会社だった。鶴岡市が市内の温泉地を観光開発するために立ち上げた第3セクターである。会社は温泉施設を建設して観光事業に乗り出したものの、商売のノウハウはなかった。みるみるうちに赤字が膨らみ、借金の返済を肩代わりさせるために、水族館の売り上げをすべて持っていってしまった。

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