一時期、「大学発ベンチャー」がもてはやされた(といっても「大学発ベンチャーになるかもしれない候補者」がもてはやされただけのような気がするが・・・)。そして大学発ベンチャーを支援する機関が雨後の筍のように設立された。しかしその後成功したというニュースはあまり聞こえてこない。

 ここで紹介するイービーエムは大学発ベンチャーとして成功し、今後も成長が期待できる貴重な一例だ。

「技術向上を目指す医師の思いに応えたい」

 イービーエムは2006年8月に、町工場がひしめく東京都大田区に創業した。主な製品は心臓血管縫合訓練用シミュレーター「BEAT」と、訓練用の血管モデル「YOUCAN(ヨウカン)」および医科手術訓練用生体類似材料等である。

 創業者は朴栄光(パク・ヨンガン)さん(写真1)。韓国系の名前だが、日本国籍の日本人だ。1981年12月生。芝浦工業大学工学部卒業後 早稲田大学理工学研究科生命理工学専攻博士課程に進学、そこで朴さんは梅津光生先生に出会った。

(写真1)朴栄光さん

 梅津先生は豪州セントビンセント病院の工学部長として豪州人工心臓開発プロジェクトのリーダーを務められた人工臓器開発の権威である。梅津先生との出会いは朴栄光さんの人生に大きな転機をもたらした。修士と博士課程の合計7年間師事し、現在も指導を仰いでいるという。

 「技術向上を目指す医師の思いに応えたい! 医師を支援したい!」との思いが朴さんにあり、開発に至った。

 社名のイービーエム(EBM)とは、Engineering Based Medicine(工学的見地に基づいた医療)の略であり、梅津光生先生が提唱されたコンセプトである。

 イービーエムの本社は東京都大田区にある。2006年に建設されたテクノFRONT森ヶ崎は大田区の中小企業のための集合型工場ビルで、5階建てのビルに50社弱の工場が入居している(写真2)。その一部がインキュベーション施設になっており、創業するベンチャーを募集、支援していた。たまたまタイミングがピッタリ合い、朴さんはそこで会社を立ち上げた。

(写真2)「テクノFRONT森ヶ崎」の外観

 「ものづくりの分野で世界的に有名な大田区に立地できて良かったと思っています。周りにレベルの高いものづくり集団があるので、試作製品を簡単に作ることができますし、何でも頼むことができます。特異な技術を持った方々が身近にいるので、材料や、処理方式についての知恵をすぐに借りられます。また、5ミリ径で長60ミリのネジがありませんか、などと借りにいくこともできます」と朴さん。