ニッケイ新聞 2012年12月6、7日

 来年はいよいよ移民105年だが、ワインなどに比べて日本酒の認知度はまだまだ低い。そんな中で新手の普及方法を編み出して孤軍奮闘するのは、リベルダーデ区に「酒蔵 アデガ・デ・サケ」を構える飯田龍也アレシャンドレさん(37、二世)だ。

アデガ・デ・サケ店内で、飯田龍也アレシャンドレさん

 8年前に日本人を相手に徒手空拳で始めて、今では主にブラジル人に対象を広げ、何と月500本近くを売るまでに商売を育て上げた。

 「10月の連休は、他州から来た客が1人で4本、5本も買っていった。父の日や母の日の前には1000本から売れる」とか。伯字紙や当地雑誌の取材への対応、講習会で全国を飛び回る日々を送る飯田さんに、飯田式ビジネスのコツを聞いてみた。

 ここ5年、10年は手巻き寿司専門店テマケリアなどが広がるなど当地風日本食がブームとして広まった。そんな日本食の“乱れ”を憂慮していた8年前、飯田さんは「まだ普及していない日本酒に一発かけてみよう。マーケットも文化も新鮮な内に開発し、ブラジル人に正しい飲み方、知識を伝えたい」と販売を思い立った。

 日本人のみをターゲットにしていた8年前の販売数は、せいぜい1日1本。「日本酒に関心のあるブラジル人は多いが、知識もないしラベルも読めず、何を買っていいか分からないことが問題」と感じ、5年前に酒の歴史や種類、原料、作り方、各銘柄を全てポ語に翻訳しサイトに掲載を始めた。一人ひとりの問い合わせにしっかり応えるサイト作りを心がけた所、「飛ぶように売れはじめた」と言う。

 得意の日本語を武器に、直接に日本の酒蔵と情報の交換をし、ソーシャル・ネットワークのフェイスブックやツイッターも使って普及をする。聞けば、日本語力は家庭内での使用に加え、13年間通った松柏・大志万学院で培ったものだというから筋金入りだ。「自分が台所で試した美味しい飲み方をポ語で載せると、その日の内に買いに来る客もいる」と効果絶大だ。

 過去5年で取り扱い銘柄は、わずか4種から150種にまで増え、数百%もの販売急増を記録した。日本酒は数社の輸入会社から購入する。実は、隠れた市場は予想以上に大きく、顧客層は想像以上に厚かった。

 取材先がなくて報道できなかった伯字紙や雑誌、TVまで殺到し、店の酒が底を突いたこともある。8割以上が35歳以上の裕福な非日系人で、国産の東麒麟を飲んで関心を持った人が、より美味しいものや新しい銘柄を求め、ネットを通して同店にたどり着く傾向がある。

 客の嗜好をつかみ、ツボを押さえた商品を勧めると「今まで何を飲んでいたんだろう!」と絶賛するという。日本酒の説明に使うため、ワインやビールも学んだ。味は単純なものからコクのあるものまで幅広く好まれ、ボトルは日本的で落ち着いたデザインのものが人気。日本人の場合は出身県の酒を買うことが多い。

 「実は客の7割は女性」と意外な売れ筋を明かす。というのも、「日本酒は15%程度と度数が低く飲みやすいから」だと聞くと納得だ。

 「とぎ汁で顔を洗うとつるつるになるくらい、米は肌にいい。冷え性にも効く」と女心をくすぐる会話術に、「財布の紐を締めていた奥さんも『もう1本』と言い出す」とか。

▼店の住所=Rua Galvao Bueno, 387, Liberdade▼電話=11・3209・3332▼サイト=http://www.adegadesake.com.br