東京・神楽坂が育てた世界最高のフランス料理

地域に対する尊敬が斬新なアイデアと味を生み出す

2010.06.09(Wed) 鈴木 春恵
筆者プロフィール&コラム概要

 そして、ラシェ氏が日本食レストランの企画を温めていた時、真っ先に浮かんだのが久高氏。ところが、久高氏自身はこの時、フレンチを専門にする料理人だった。

ブルターニュの食材を使いこなした日本料理

シェフの久高章郎(くだか・ふみお)氏

 しかも、フランス各地の三ツ星レストランの厨房で働いたという輝かしいキャリアの持ち主で、先週の記事で紹介したオリヴィエ・ロランジェ氏のもとでも経験を積み、彼がたいへん信頼を寄せる人物でもあった。が、和食のキャリアはない。

 「日本にもたくさんの料理人の友人はいるけれども、何よりフランスを知っている人に来てほしかった。久高さんは加えて、ブルターニュの食材を完璧に承知しているということが強み」

 「僕がやりたかったのは、寿司や焼き鳥屋ではなく、ワインとも相性がいい、レベルの高い日本食レストランだったから、彼にこそぜひ挑戦してほしいと思ったのです」

 それからというもの、久高氏は東京の名店と言われる店を回り、独学での研究も重ね、この春の開店を迎えたのである。まだ木の香りが立ち上ってくるようなレストランは、なるほど本格的。京都で手に入れた和食器などの調度も手伝って、かなりいい雰囲気の店内である。

 「ブルターニュからは確かに遠いから、日本に行った経験のある人は少ないです。けれども、ここにいるとまるで日本にいるみたいな気分になるでしょう? けれども、お勘定は日本行きのチケットよりもずいぶんと安いはずです」と、ラシェ氏は笑う。

日本人よ自信を持て、それが観光立国として成功する条件

 「この仕事はね、人に夢を見させられるというのも大事なんです。例えば、カンカール生まれの『ブレッツ・カフェ』と言った時、日本の人々がフランスのブルターニュ地方を思い描くのと同じで、ここではブルターニュの人たちがまだ見ぬ日本にいるような夢を見る」

 「日本料理にしても、日本そのものを取っても、世界の人々にもっとたくさんの夢を見せてあげることができるのに、日本人は控えめすぎるんじゃないかと思う」

 「どうして日本はもっとツーリストを集められないのか? コンプレックスなんて感じている場合じゃない。もっと外に広めていくべきだし、もっと引き付けるべきですよ」

 「信条」。ラシェさんの成功はビジネス一辺倒ではなくて、この信条の裏づけがあってもたらされたもの。

 果たして、どれくらいの日本人に、自分たちのアイデンティティーと文化を外に広めていく信条と行動力があるだろうか・・・。彼の熱っぽい弁舌に触れながら、私自身は少しばかり自分が小さく感じられるような思いだった。

 

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出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめ、ヨーロッパの風土や文化、人々の暮らしをテーマにした取材を、文と写真で展開している。


欧州

欧州は観光ばかりでなく農業や地方の活性化、また少子高齢化対策などでも日本が学ぶべき点が多い。日本が課題とするこうした点を欧州ではどのように克服しようとしているのかの実例をお送りする。また、欧州で高く評価される日本の芸術・文化などのソフトパワーについてレポートする。