東京・神楽坂が育てた世界最高のフランス料理

地域に対する尊敬が斬新なアイデアと味を生み出す

2010.06.09(Wed) 鈴木 春恵
筆者プロフィール&コラム概要

 そして、クレープを食する時には定番の飲み物、シードルは本場から輸入。農家の協同組合組織による正真正銘のブルターニュ産シードルである。

人通りのなかった道に人の行列ができた

 さて、年が明けてからの展開はと言えば、人通りがなかったはずの日曜に店の前に行列ができるというほどの評判で、以後この通りに次々と様々な商売が出店するという現象を呼ぶ。

 それからというもの、表参道、横浜、川崎、新宿と相次いで店舗を拡大展開し、15年たった現在では、80人の従業員を抱えるまでに成長した。

「ブレッツ・カフェ」のクレープ。お供にはもちろんリンゴのお酒、シードル

 さらにその間、2007年にはパリにも出店したのだが、この成功もまた目覚ましい。日本とは状況が違って、パリには既に山のような数のクレープ屋が存在するが、そのクオリティーの違いというものに人々は確実に反応を示した。

 週末ともなれば、昼から夜まで切れ目なく人が並ぶ。30席ちょっとの店に、1日に500人から600人が詰めかけるというのだから、その繁盛ぶりが想像できるだろう。

 また、メディアからも引っ張りだこで、超高級ホテルのゲスト向けの雑誌にも紹介されたりするものだから、そうした人たちがリムジンで乗りつけて、本来ごく庶民的な食べ物であるクレープを賞味するという現象まで見られるという。

 つまり洋の東西を問わず、ビジネスの難しいこの時代にありながら、サクセスストーリーと言える歴史を築きあげている。

ビジネスが成功するカギは起業家の「信条」にある

 「conviction(コンヴィクション=信条)がなければいけない」と、ラシェさんは言う。

 「私たちの仕事には、メッセージを伝えるための能力、コミュニケーション力が大事。ただ単に料理とワインを提供していればいいというものではないのです。お金儲けのことしか考えず、どうでもいいようなものを出す店には、私は我慢ならない」

 では、彼の信条、伝えたいメッセージとは何か?

 それは、まぎれもなく生まれ育ったブルターニュそのもの。クレープという媒体に乗せて、その土地の文化を伝えたいという気持ちが彼にはある。だからいい加減なものは出したくないし、従業員にも積極的にブルターニュを経験させてあげたいと試みている。

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出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめ、ヨーロッパの風土や文化、人々の暮らしをテーマにした取材を、文と写真で展開している。


欧州

欧州は観光ばかりでなく農業や地方の活性化、また少子高齢化対策などでも日本が学ぶべき点が多い。日本が課題とするこうした点を欧州ではどのように克服しようとしているのかの実例をお送りする。また、欧州で高く評価される日本の芸術・文化などのソフトパワーについてレポートする。