ベトナムの首都ハノイに滞在中、1通のメールを受け取った。日本の中小企業からのベトナム事業に関する緊急相談だった。

 中小企業支援団体の国際ビジネス支援部経由の相談だ。すぐに現地責任者が会いたいとのことで、数日後の午前10時頃、ハノイで宿泊しているホテルのロビーで待ち合わせた。

突然の資金ストップで予期せず起こった「資金の現地化」

 「ベトナムで新工場の立ち上げをしているのですが、第1回目の工場建設代金を支払った直後に日本親会社からの資金がストップしてしまいました」と現地責任者が説明を始めた。突然、日本でメーンバンクからの融資が取り下げとなったのだ。

 日本の親会社がメーンバンクにベトナム事業への支援をしっかり取り付けていなかったのか、タイムリーに現地工場の進捗を説明していなかったのか、見切り発車で動いてしまったのか、どうも判然としなかった。

 しかし、工場建設工事は進んでいる。工事代金の中間支払いまで約1カ月。それまでに銀行から融資が出ないとなれば工場建設は頓挫する。

 日本でメーンバンク以外から資金調達をするにしても、一からの説明となり、邦銀の融資決裁に相当な時間がかかることを考えると間に合いそうもない。さて、どうするか。

 そこで、ベトナム大手国営商業銀行の支店窓口へ駆け込んだ。もちろん、アポなしに駆け込んだのでは、ただでさえ敷居が高いベトナムの国営商業銀行のこと、うまくいくはずはない。

 建設中の工場が立地する地域で同商業銀行の支店長へつながる人脈を使い、なんとか接触に成功。幸運にも、先に採用していた現地幹部社員の中に銀行へつながる人脈があったのだ。

 結果として、約1カ月で工場建設資金として最低限必要な長期資金の融資決定までたどり着くことができた。

 今後は、地場銀行から導入した長期借入の金利が多少高くても、その前提条件の中で事業計画・資金計画を組み直し、それに従って何が何でもモノ作り・ビジネスを継続していかなければならない。それこそ必死だろうが、自立的な現地経営の道を歩き出せることと思う。

 こうして、否応なく「資金の現地化」が進んだ。いわば、“災い転じて福となす”だ。