「20年前の中国に日本企業がたくさん入ってきたように、バングラデシュも間違いなくその時代を迎えるでしょう」

 小島衣料(本社:岐阜県岐阜市)のオーナー、小島正憲さんは話す。

 20年前の中国は、1人当たり月額20ドル(当時のレート1ドル125円で換算して約2500円)という低水準の賃金で、数百人規模の労働者をすぐに集めることができた。だが、賃金が高騰する今は、400ドル(1ドル80円で換算して約3万2000円)を出しても人はなかなか集まらない。

 小島さんは、中国に続く縫製工場の拠点をバングラデシュに求めた。縫製業が求める生産条件が、賃金の安さ、質の高さ、手先の器用さであるとするならば、このバングラデシュはすべてを満たす。賃金水準はミャンマーに次ぐレベルだ。

 バングラデシュには、ざっと4000~5000の縫製工場があると言われ、零細工場を含めればその数は2万にも上るとも言われている。その先鞭をつけたのは韓国企業だった。バングラデシュで欧米向けの出荷を増やし、その後、欧米の製造小売のZARAやH&Mがバングラデシュに進出し、繊維産業の素地を築いていった。

小島衣料ダッカ工場から一望した景色

 ダッカ郊外には「アシュリア工業ベルト地帯」などのような工業団地もあるが、小島さんの工場「KOJIMA LYRIC GARMENTS.,LTD.」は工業団地内にはない。立地する場所はガジプールという町で、ここには日系企業はほとんど見られない。

 その理由を小島さんはこう語る。

 「ストの嵐に巻き込まれることを避けて、工業団地には開設しませんでした。ここならストは飛び火することはありませんから」

 ダッカ市内から車で1時間半。周囲に広がるのは田畑である。この牧歌的な風景の中で、周囲の地元企業の工場に溶け込むようにして生産活動を行っている。

日本で驚かれる品質の高さ

 7階建ての工場は低層階を裁断スペース、倉庫が占め、3階から上階が作業現場となる。「手探りだが、2年の時間をかけて9割がた完成させた」(小島さん)という現場を見せてもらった。