清郷伸人さんは、腎臓にがんが見つかり、その後転移して、抗がん剤は効かないし手術は危険、治すのが非常に難しいと主治医に宣告された。しかし、転移の進んだ難しいがんから見事に立ち直る。いまでは闘病生活から離れて生き生きとした生活を送っている。

 清郷さんに“奇跡”を起こしたのは混合診療と呼ばれるものだ。簡単に言えば、保険の利く治療は保険治療を行い、保険の適用外の高度治療は全額患者負担で行う診療方法である。

腕のいい医師に患者が集まるのを恐れる医師会

 とても合理的な方法と思えるが、いまの日本では認められていない。保険診療と同じ医療機関で保険適用外の治療を受けると健康保険を取り消され、保険が利く治療が含まれていても全額自己負担になる。

 その理由はこのあとのインタビュー記事で詳しく触れているので繰り返さないが、一言で言えば医師会と厚生労働省の既得権益を守りたいがためである。患者のためと言いながら、実は患者のことは後回しになってしまっている。

 混合診療を入れたくない最大の理由は、保険と非保険治療を組み合わせて最も効果の高い治療方法を工夫した医師に患者が集まり、そうでない医師が困ってしまうということだろう。しかし、競争のない世界には成長もない。

 もちろん日本の健康保険制度は素晴らしい。しかし、どんなに素晴らしい制度も必ず制度疲労を起こすことは歴史の教訓である。少子高齢化が進み、国民の医療費負担は日本が抱える最大のテーマと言っていい。

 ここで、日本は世界最先端の医療システムを構築できるのか、あるいは旧来のシステムのまま疲弊していくかは、医療界のみならず日本全体の大問題でもある。

 今回は知られているようで知られていない混合診療の問題を追った。ここには「赤信号みんなで渡れば怖くない」式の発想しかできない大メディアの問題も含まれている。 

混合診療を週刊誌に暴露され、治療継続が不可能に

官僚国家vsがん患者 患者本位の医療制度を求めて』(清郷伸人著、蕗書房、1429円・税別)

川嶋 清郷さんが、がんに罹患されたのはいつですか。

清郷 2000年10月に職場の検診で左腎臓にがんが見つかり、翌年1月に神奈川県立がんセンターで摘出手術を受けました。しかしその6カ月後に、頭と首の骨に転移していることが分かりました。

 当時53歳で、主治医にはいい治療方法がないと言われました。腎臓がんに抗がん剤は効かないし、頭の手術は非常に危険で難しいと。

 それで免疫治療をやりますかと勧められたんです。それまで保険診療でインターフェロン療法を受けていたんですが、それと併用することにしました。