金型を知る人の世界に、名人・匠と呼ばれる人が何人かいる。例えば、下町の魔術師と呼ばれる岡野工業の岡野雅行さんだ。痛くない注射針ですっかり有名になった。平成の左甚五郎だ。

 岡野さんほど有名ではないが、日本で「あいつは凄い」という定評のある人が何人かいる。これらの人々は「○○製作所が無理だと言った。△△工業も首をかしげた」というような難しい仕事が来ると、「それじゃあ、やってやろうじゃないか」と猛烈にファイトが沸いてくるという。

 その中の1人が、今回紹介するセキコーポレーション(東京都八王子市)の関重和社長だろう。

複雑な機構をどんどん作る不思議な金型

 筆者は最初にその金型を見たときに、魔法ではないかと思った。通常であれば、数人の作業員が並んで作業して、初めて得られるような複雑な機構が金型からどんどん飛び出してくる。

写真1 順送加工サンプル(スケルトン)

 特許申請書風に言えば、「1台のプレス機に搭載された、複数の部品が加工できる多数の順送型に、それぞれの連続した帯板金属薄板を供給し、内蔵されたカシメ型や圧入型により組み立てまでを一貫して加工できる技術」となる。

 普通の順送金型というのは1つの金型の中に10~20の加工ステージが、コマ送りしながら加工を進行させ、最終ステージで切り離して部品を完成させるもので(写真1)、組み立て品は別工程で人手による2次作業が必要であった。。

 関さんの「金型内組立加工技術」はこれらの全てをプレス加工で同時に行うものであり、画期的なコストダウン効果をもたらした(写真2)。

写真2 金型内組立加工技術