資源価格の高騰に合わせ着実な経済成長が続くロシアでは、2008年の経済危機に見舞われた時ですら国民は医薬品に費やすお金を減らさなかった。2009年以降、ロシア人の支出に占める医薬品の割合は持続的な伸びを示している。

 これはロシアの医薬品市場における新たな現実を示す良い兆候だ。ロシアで売られる医薬品に対する消費者の不信感と、医薬品会社の短期的で輸入志向の政策は、今や過去のものとなった。

ソ連崩壊前後の混乱で模造品が蔓延

 他国と比べた場合、1人当たりの年間支出では、ロシア人はまだ医薬品に向ける支出がかなり少ない(日本が650ドルなのに対し、ロシアは100ドル前後)。だが、ロシア経済発展貿易省の予想によると、ロシア人は2020年までにこの支出額を4倍に増やす見込みだ。

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国家崩壊は国民にとって大きなストレスとなった(写真はモスクワの赤の広場の近くで物乞いする人)〔AFPBB News

 近年のロシアの医薬品分野の歴史を振り返ると、それはかなり脆弱なものだった。薬を生産・販売し、市民に分配するソ連の国家制度は、1980年代後半に事実上崩壊した。

 そこに新規参入者が登場し、空白の医薬品市場に新たな名前、ブランドが誕生した。

 あの頃、ロシア人は国家崩壊と全般的な不安定さに関連した多くのストレスにさいなまれ、より多くの薬を摂取したが、まともな所得がないことから支出を抑えざるを得なかった。

 そこで悪徳メーカーが現れ、見た目の良い模造薬を低価で販売するという常套手段で大儲けした。1990年代半ばには、ロシア製の医薬品といわゆる「輸入薬品」の70%近くが模造品だった。

助かるか死ぬか分からなかった「クスリ恐怖症」の時代

 それと同時に大勢のロシア人が、ロシア製の医薬品に対する信頼を失った。だが、いわゆる外国製医薬品の大半も実は模造品だったため、当時のロシアは本当に「クスリ恐怖症」の時代だったと言える。薬で助かるのか死ぬのか、誰も分からなかったのだ。

 手段を持っている人は、親戚や友人に頼み、命にかかわる重要な医薬品を外国から届けてもらったものだ。